file1赤い悪魔《レッドフード》④
数日後、『赤い悪魔』の噂は影も形もすっかりと消え、俺の生活も、すっかりと元の日常を取り戻していた。一応、ヴィヴィアスさんに緊急連絡用として教えてもらったヴィヴィアスさんのアドレスも結局使わず仕舞いだ。
だがそんなある日、平和は、音を立てて崩れ落ちた。
「有栖大変!!ほなちゃんが倒れたって!!」
「………え?」
「交差点で信号を待ってたらいきなり何かに怯えたと思ったらなにかに当てられたように倒れたんだって!!ほら有栖!さっさと病院行くよ!!」
「....わかった。行こう!」
愛知とともに千葉の入院する大学病院に駆けつけると、そこには、呼吸器が付けられた包帯だらけの状態でまるで気を失ったように眠り続ける彼女の姿がそこにあった。
「ほなちゃん!!目を開けてよほなちゃん!!」
愛知は、千葉の傍に駆け寄ると子供のように泣きじゃくる。その光景にただ歯を食いしばっていることしかできない自分に思わず嫌気がさす。
「………くそっ!」
「ちょっと有栖!?」
気づけば俺は密かに舌打ちをして、病室の外へと飛び出していた。
愛知の制止する声も聞こえずに、俺はひたすらに足を動かせる。
(アイツだ!!ヴィヴィアスが言ってた黒薔薇の弟子が俺を狙ったせいで千葉はこんなことになって、愛知を泣かせてしまった。だから、こんなことになったのは俺のせいだ……!!)
(くそっ!くそっ!なんでだよ!!狙うなら俺を狙えよ!!なんで関係ない千葉を狙ったんだよ!!)
その慟哭は誰に届くわけでもない、誰が答えてくれるわけがない。
だが、今の俺には届くわけがないその慟哭を胸に、ただ怒りと後悔の感情が走るまま
俺は走りながらこの事件において、魔術の怪物、怪異の専門家にして、俺の知る限りあの化け物を唯一倒し得た人間である彼女に電話を掛けることしか出来なかった。
『……あら、暫くね。いったいどうしたのかしら?』
「ヴィヴィアスだよな!!前アンタが言ってた黒薔薇の弟子ってヤツに俺の友達が襲われた!!」
『……………そう。彼、とうとう動き出したのね。それで?貴方はどうするのかしら?』
「……正直、今すぐ犯人を殺してやりたいほどに憎いよ。」
『…………そう。』
「でも、でもさ!!俺が今がむしゃらに犯人を探しても犯人には返り討ちにあう。それはわかってる!!!そんな事はきっと千葉だって望んでない。だから……アイツを倒してくれ!!!」
溢れそうになった涙を堪えて、ありったけの声でそう答えると、電話越しにおだやかな声が聞こえてくる。
『────よく決断してくれましたね。あとは………』
「私達に任せなさいな。」
薔薇の旋風が吹き荒れた後には、華やかなドレスを身に纏った少女が、そこにいた。
「ヴィヴィアス……なんでここに?」
「
「………そういうものなのか?」
「ええ、そういうものよ。それじゃあ逆転の一手を打ちましょうか。」
「もう打てるのか!?」
「ええ、だけどまずは現場百遍。現場に戻りましょうか。丁度、貴方も行こうとしてたんでしょう?」
「……?」
ヴィヴィアスに促されて俺達は先日レッドフードに襲われた交差点に戻ってきた。
「………とはいっても、こっからどうするんだ?」
「こうするのよ。
ヴィヴィアスが瞳を閉じて地面に手を付けると、足元に薔薇のように赤い巨大な円のような紋様が浮かびあがる。
「………千葉?」
すると、紋様から溢れた光の粒は、レッドフードと千葉の姿となり、レッドフードのような光の粒が、千葉の形をした光の塊を襲うと、元の粒へと再び飛散する。
「………よし、いい子ね。」
「なあヴィヴィアス。それってなんだ?」
「レッドフードの魔力の痕跡を魔力の粒として顕現させたわ。これで、上手く行けば犯人の元にたどり着けるはず。」
「なんだって!?ならすぐ行こう!!」
「お待ちなさいこのお馬鹿!!そんな無防備に突っ込んで相手の罠だったらどうするの?」
「それはそうだけどさぁ……じゃあこのまま俺のせいで犯人が他の人を襲うのを指を咥えて待ってろって言うのかよ!!」
「その方が効率的だとは思うけど……貴方、それじゃあ納得しなさそうね。」
「当然だ!!」
「……でしょうね。それに、私だってそんな野蛮極まりない作戦するつもりはないわ。だってそれって、全然美しく無いですもの。」
夕陽に照らされて妖しく笑う彼女の姿が、俺にとってはまるで、
「────はっ!」
俺は我に返って必死に首を振ってぼんやりとしていた意識をはっきりさせる。
いったいどうしたんだ?俺。もしかしてレッドフードの呪いがまだ残ってるのか!?
「どうしたの?有栖くん。」
「ああいや、なんでもないよ。それより、どうするんだ?無闇に突っ込むワケにはいかねぇし、それに犠牲者を出すのは認めないしアンタもしたくないんだろ?」
「ええ、待ってる必要なんてないわ。だからむこうさんをこっちに引っ張ってくるとしましょうか。」
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