fileⅠ 赤い悪魔《レッドフード》③
「とりあえず座りなさい。ああそうだ、紅茶飲む?ダージリン、アッサム、ローズヒップ、色々あるけど。」
「ダ、ダージリンで。」
「ダージリンね、マーガレット お客様の紅茶を注いでちょうだい?」
「はいはーい!お嬢様の仰せのままに!」
メイドらしき女性が鼻歌を唄いながら棚からティーカップを取り出すと、有名な刑事ドラマの相◯でしか見たことがないような注ぎ方で紅茶を注ぐ。
(うわぁー.....ホントにそういう注ぎ方する人いるんだぁ....)
そんなことを呑気に思ってると、メイドさんは俺の目の前のテーブルに皿に乗せられたティーカップを置く。
そして、自分の目の前に置いたティーカップを持つと、本題に入る。
「それで?貴女はレッドフード………赤い悪魔についての噂をどれくらい知ってるのかしら?」
「どれくらいって言われても……時刻は夕方の6時ちょうど、13番地の交差点を待つ人の前に突然現れて、人を呪い殺すっていう都市伝説ってことしかわかんねーな……まさかホントにいるとは思わなかったけど。」
「そう……それだけなの。なら話すとしましょうか、まずはそのレッドフードがどうして貴方の前に現れたのかについてね。マーガレット、ホワイトボード。」
「はいはーい!!」
(さ、さっきのメイドさんがホワイトボード持って突撃してきたー!!!?)
「まず説明すると、私は魔術師。超常と共に歩み、神秘を操る者。そうね、簡単に言えば魔法使いよ。」
「魔法使い……?」
「そうよ。もし受け入れられないのなら魔法の一つでも見せてあげましょうか?」
「結構です!!?」
(さすがにあの時、赤い悪魔をボコボコにしたビームとか炎とか色々食らったら生きて帰れる気がしないよ!!)
都市伝説の赤い悪魔に魔法使いとか、正直とても信じられないけど、さっき、交差点で繰り広げられた漫画みたいな光景にも一応納得がいく。
「……それでその魔術師が赤い悪魔の噂に何か関係あるのか?」
「関係あるといえばあるけど、ないといえば無い、といったところね。」
「え?どういうことだ?」
「だってあれは噂の悪魔そのものじゃないもの。」
「は?」
「だってアレはあくまで『赤い悪魔』の噂が核として埋め込まれているだけの自立稼働型の魔術式。ようするに魔法で作られたカラクリ人形みたいなモノね。」
「.....はぁ。」
ちょっとよくわからないからホワイトボードの方に目配せしてみると、ロボットの絵の中に中心に噂と書かれた円が描かれている図としてわかりやすく描かれていた。
「そして噂を核に埋め込まれた魔術式は噂の条件に合致した人間を
「じゃあ、なんだ?俺は偶然、赤い悪魔のプログラムの条件に引っ掛かったから殺されかけたってコトかよ!?」
「まあ、そうなりますね。でもおかしな事が少しだけあるの」
「おかしなコト?」
「ええ、だって貴方、男性でしょう?だいたいこの噂がモデルの魔術式は女性しか襲わないはずなの。」
「な、なんで?」
「さあ、女の子に見えたからとかじゃないかしら?」
「くそっ……そうであって欲しくないのに否定できねぇ....!!」
「....冗談はこれくらいにして、貴方が狙われた事にはなにか理由があるはずですわね。レッドフードがバグったか、貴方の中になにかがあるのか、それとも黒薔薇の悪趣味な趣向か。」
「えっと……赤い悪魔の時も言ってたけど黒薔薇ってなんだ?」
聞いてみると、ヴィヴィアスは露骨に嫌そうな顔をして硬直する。
「えっと……ヴィヴィアスさん?」
「代わりに私がお答えしましょう!!」
さっきまでホワイトボードに図式を書いていた筈のフリルの着いたメイド服を着た金髪の少女が俺の背後にいつのまにか回り込んで大きな声で話しかけてくる。
「うぉっ!?...びっくりしたー....」
「黒薔薇っていうのは
「……ええ、マーガレットの言うとおりよ。私はアレを嫌ってるし、おそらくアレも私を嫌ってる。もっとも、あのような汚物と気が合うような人間がいるとは思えないけれど。」
(ひどい言い様だな…………)
ようするに噂を再現した赤い悪魔、いや、ヴィヴィアス曰く"レッドフード"を作ったのはその黒薔薇って魔術師らしい。
「それで話を戻すけど、貴方はその黒薔薇の悪趣味のおかげで狙われる筈がなかったのに何故か命を狙われた。その理由を探るために......なら、とりあえず服を脱いでくださるかしら?」
「.....はあ!?」
なんでだよ!?なんで理由を探るために服を脱ぐ必要があるんだ!!
「....きょ、拒否権は?」
「あると思って?ガーネット、彼を脱がせてちょうだい。」
「お任せをー!!」
「待って!お任せしないで!!」
「がまんしてください!!抵抗しなければすぐに終わりますから!!」
「きゃー!!変態!!スケベ!!エロ魔神!!」
「ぐへへー!よいではないかよいではないかー!!」
「......ふぅん、なるほどね。」
「うわーん!!がっつり見られた上になんか納得されたー!!?」
「もういいわ。早く服を着てちょうだい。」
「えっ?」
「ほらボーッとしない!レディの前でいつまで肌を晒すつもり?」
「わっ、わかったよ....」
自分から脱げと言い出したくせに勝手なお嬢様だなぁ......まあ、俺だって女子の前でいつまでも脱ぐつもりはないし趣味もないけど……それに見られたくないところだってあるからさすが服を着ようとして脱がされた服に手を伸ばす。
その前に、ヴィヴィアスの一声によって阻まれる。
「ねぇ、貴方。ソレはいつからかしら?」
「…………お前には関係ないだろ。」
「────ええ、私には関係ないわね。じゃあ閑話休題、話を戻しましょう?ねえマーガレット、どこまで話したかしら?」
「その子はどうして狙われるか、ですね。」
「それはもういいわ。」
「へ?」
「どうして狙われるのか、それは十分分かったから。それに.....」
ヴィヴィアスは俺に対して一瞥してからこう言った。
「?」
「なんでもないわ。だけど───彼を狙ってレッドフードを放った元凶についても、だいたいわかった。」
「ッ!!......教えてくれ!誰なんだ!?」
「────
「アンタらはその弟子を捕まえようとしなかったのか?」
「……魔力の痕跡や気配まで消す厄介な怪異を使っていまして…足取りを追えなくて苦労してたんですよぉ……」
「そういうことよ。だからこっちとしても困っていたのだけれど……今日、丁度いいコ……手がかりになる依頼人が来た…。これでようやく動き出せる。」
「今明らかに"丁度いいコマ"って言いかけただろ!?……」
「アイツの弟子のコトだから、どうせまた新しい手を打ってくるわ。その時を狙うの。…………私のテリトリーを荒らし回った罰、100万倍にして返してあげる……!!!!」
「こわぁ.....」
.....この世で初めて『女の恐ろしさ』ってヤツを知った瞬間だった。
正直知りたくなかったそんなの…………。
人の気配がすっかり消えた真夜中の交差点から少し外れた裏路地、そこには数時間前まで有栖とヴィヴィアスと戦っていた筈の赤い悪魔……正確には『赤い悪魔の噂を核に構成された魔術式』である怪異、"レッドフード"が糸が切れたかのように倒れ伏していた。
そこに、まるで狼のような灰色の髪を肩まで伸ばし、まるで白鳥を思わせる純白のワンピースに身を包んだ少女がレッドフードの側に立つ。
「あーあ、そんなに焼け焦げちゃって。」
少女はまるでおもちゃが壊れたかのような残念そうな顔を一瞬だけ見せたと思うと、すぐさまレッドフードに向けて笑いかける。
「まあいっか。まだあの女に破壊された分の術式を修復すれば動きはするみたいだし。それに『アレ』も手に入れてぇし……」
少女はその日に使い魔を放って監視していた時の光景を見て微笑む。
だが、その微笑みは天使のような可愛らしさとは裏腹にどこか、邪悪な悪魔のようでもあった。
「今まで趣味優先だったけど、そろそろ動き出さないとね。……捕まえたら誉めてくれるかなぁ黒薔薇様♪」
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