第8話 街に少し繰り出す話

 昨日の一回戦に勝利して、ものすごくうれしかった。

 でも思っていたよりもあっさりやられちゃうから拍子抜けしちゃったなぁ。

 ってそんなことはどうでもいいのですが、昨日からエプソンがどうもおかしい。どうしてしまったんだろう。

 たぶん思うに、私が負けたチンピラを助けちゃったのが気に召さなかったのだろう。気持ちは分からないことはないかもね。

 でも、私と戦ってけがして、なのにそのまま放置っていうのが嫌だったからなぁ。だから、気が付いたら助けちゃってた。

 エプソンはお人よしって言っていたけど、自分でもほんとにそうだと思う。なんで助けちゃったんだろうな。自分でもわけ分からないよ。


 ハァ........。ドサッとベットに寝ころび、そのままゴロゴロとして過ごしていた。別にすることもないしね。

 多くの人は次の対戦相手の観察に出かけるのが常らしいが、私はそんな面倒くさいことはしたくない。

 それになぜかは知らないけれども、対戦相手のことを少し見ただけでこいつの魔法はこんな感じである。こいつの弱点はここだっていうのがわかっちゃうんだもん。見るだけでわかっちゃうんならいちいち観察しに行くのは時間の無駄だと思うんだよなぁ。


 そう思いながら水を飲もうとベットから起き上がると、「いったぁ」何かの角が下した足にあたってしまったらしい。

 なんだろうと思ってみると。「なんだ、これか。」



 こっちの世界に来て、奴隷になりかけた時の部屋にあった、獅子のマーク付きの青い表紙の本だった。そういえばあの時に、勢いで持ってきちゃったんだった。legulus(レグルス)って書いてある。どう考えても題名だよね。

 レグルス=獅子座だからスフィンクスのような座り方をしているライオンが描いてあるのね。納得。


 あれ、水が無い。買いに行かないと。

 そう思い部屋から出ると人にぶつかってしまった。エプソンだった。

 エプソンとは、何故かよくぶつかる。

「おう、ミクか。ちゃんと前向けよ。危ないからな。」とそれだけ言うとそそくさと離れていった。

 昨日のことまだ気にしてるのかな?

 まぁ、気にしないのが一番いいよね。って言うわけで、売店に行きましょうか。


 私たちが暮らしている工房の寮近くにはちょっとした商店街がある。

 結構雰囲気がいいんだけど、その昔ながらって感じと今時って感じが妙に混じってる感じは少し嫌なんだな。この感じ自体は嫌じゃないんだけど…結構嫌な想い出もくっついてきちゃうから、こういうところは出来れば来たくなかった。


 でも、こっちでは全部ここに来ないと色々と揃わないから来ざる負えなくて、今ではもう慣れましたわ。


 そんなこんなで、売店で水やその他、必要なものを無事買い終え。部屋に帰ろうとすると、後ろからものすごい音がこっちに向かってきた。うるさいなぁ。何の音か、と思って振り返ったら、私の目と鼻の先の距離にゴエとアルターいた。

 二人も買い物に来たのかな?と思ったが、その様子は、買い物に来たというよりもまるで迷子の子供を必死に探しているかのようであった。

 そんなに必死で誰を探してはるのや?と思いながら、首をひねっていると、後ろから肩を触られた。


「うぎゃ~‼⁇」と大悲鳴を上げてしまう。

「あっ、ごめんなさいね、ミク。驚かせちゃったわね。」と後ろから肩に触れた主:リゲルさんが決まり悪そうに言う。

「なんだリゲルさんか…。びっくりしたぁ~!」

「ごめんね。買い物に来てたの?」

「あっ、そうなんです。ところで、ゴエとアルターは何をしてるんですか?誰かを探してるみたいですけど...?」

「ええ、実はエプソンを探してて、見なかったかしら?」

「えっ?エプソンですか?彼なら部屋を出たときにぶつかりましたけど…」

「あっ、ホント?どっち方向へ行った?」

「確か、ドアを背にして左でした。」

「ああ、かぁ...」と後ろから声。


 って、アルター達かい!びっくりさせるなぁ!この人たちは!心臓が持たんよ。と心の中で二人に文句を言いつつ、二人に向き合う。

「えっと、いつもの場所とは?」

「あれ?案内の時に聞いてないの?」と天然すぎるゴエ。

 そんな彼に対し

「あいつが自分の隠れ家を言うと思うか?お前みたいな馬鹿じゃないんだし」とあきれながらのアルター。

「そっかー」と笑っているが、内心怒っているなという感じのゴエ。

「えっと、ともかくエプソンを見つけないといけないんですよね?それはどうしてですか?」

「それは本人から聞いた方が一番だと思うぞ。」

「そうね。私たちはほかの仕事があるから、エプソンにこれを渡しといてくれる?」とリゲルさんから預かったのは謎の本...。なんだこれは?

「気にする必要はない。魔法関係の本なんだけどね。エプソンが貸せってうるさいから貸すだけだ。」と不満げなアルター。彼は自分の本が他人に触れられることを極端に嫌うのだ。

「分かりました、届けますね。それで、どこに行けばいいんですか?」

「あれ、まだ言ってなかった?寮の隣にある教会よ。そこにいると思うから。それじゃあ、よろしくね!」

 そのまま、気さくに手を挙げて去っていった。


『はぁ、教会ねぇ。なんでそんなとこにいるのよ?

 それに、この本重たいし。早くエプソンに渡さなきゃ、私の身がもたない。』等々

 と文句を言いつつ、エプソンがいる教会へと向かうのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る