君は死んだふりをしている変な子だけど、ちょっと寂しがり屋で、可愛いい
つづり
第1話 君は死んだふりをしている変な子だけど、ちょっと寂しがり屋で、かわいい
好きな女の子がいる。しかしその子は不登校とまではいかないが、学校は休みがちだ。窓際の席に座って読書をしている姿を見ると、嬉しくて動揺してしまう。
「カナエちゃん」と僕はその子を呼んでいた。
そのカナエちゃんが、今僕の目の前に倒れている。
放課後、帰宅しようとしていたのだけど、教室に忘れ物をしたことに気がついた。慌てて、誰もいないはずの教室に来たら、カナエちゃんが倒れていたのだ。
僕は仰天した。
「カナエちゃん、カナエちゃん!」
僕の必死な声。緊急事態だ、先生を呼ぶか、救急車を呼ぶかとなっていたら、くくくと喉を鳴らしてカナエちゃんが笑いだした。
「あははは、ひっかかってる!」
僕はあまりに勢いのある笑い声と、本当におかしそうに笑う様子に呆然とする。カナエちゃんはひぃひぃと息をつき、僕を見た。
「ああ、ごめんね、死体ごっこしてただけなのよ」
「し、死体ごっこ?」
「ほんとは干物ごっこだったんだけど、死体になりたい気分だったから」
「は、はあ……」
死体の気分って、生きている人が味わえるんだろうか。そんな疑問を覚えずにいられなかったが、とりあえず相槌を打つ。
「いやー、生きてるの退屈だから……面白いことをしたいなって……それより、君なんでここに来たの? さっき教室出ていったよね」
その言葉に僕は頷いた。そして事情を手短に話す。
カナエちゃんはふむふむとちゃんと話を聞いてくれた。
「ああ、忘れ物をとりにね、なるほど」
カナエちゃんは、んーと身体をのばした。
そうだ、と言い出す。
「帰る前に私に付き合ってよ、ちょっと人の意見を聞きたいところもあるんだ」
「え」
「いやなのかなー」
「い、いや」
カナエちゃんに声をかけられたことが嬉しくて、動揺しきったなんて言えない。。
カナエちゃんは窓際の席で、静かに本を読んでいるときとうってちがった、明るくのんきな調子で、黒板を指さした。
「アレの首、何が良いと思う?」
そこにはスーツを着た男の絵があった。ただ首から上がない。だから首無し男になっている。
「なんの絵を描いてるの?」
僕は絵の意味が分からず、頭をかしげた。カナエちゃんは、へへへと茶目っ気たっぷりに言った。
「先生、担任の横溝先生だよ。あんまりムカつくからさー、いっそマスコットみたいにしてやろうとおもったの」
「そうなんだ……でも、モデルがいるなら、普通に描けば良いんじゃないの?」
「あーそれもそうなんだけど……ただ描くのもおもしろくないから、動物とか別のものにしようかなって」
「なるほどー」
僕はカナエちゃんに、どんなイメージを浮かべたのかと聞いた。
「石頭とかー、じっと見てくるから、鳥みたいにしようかなーっとか……個人的には人の意見をすんなり聞かないところあるみたいだから……うまく表現できないかなって」
担任の横溝先生は、あまり評判が良くない。先生をしたくないと思っているんじゃないかと噂されるほどに、なにかあまり良くない感情がすけて見える先生だ。担任になったらハズレといわれるくらいなので、カナエちゃんもなにか思うところがあるのかもしれない。
「個人的にお餅でもいいかもと思い出してる」
「その心は?」
カナエちゃんに聞くと、カナエちゃんは、ぺろりと舌を出した。
「ネチネチ、ネチッこいから、お餅かなって」
「それはお餅にたいしてかわいそうだよー」
僕は思わず突っ込んだ。僕も大概ひどいやつである
。
「それはそうかもねっ」
彼女は笑いながら、僕の言葉を聞いていた。
僕の知っているカナエちゃんは非常におとなしい子だった。なんせ病弱と噂で教室にいることも少ない。いても本を読んでばかりで、とてもお人形さんのように静かなのだ。今の姿とギャップが大きい。見ている姿と実際の姿がこんなに違うとは。
僕とカナエちゃんはいっぱいお話して、横溝先生の頭のイラストを考えた。その時間はあっという間で、気がついたら、死んだふりをしているカナエちゃんを見つけた時から数えて一時間経っていた。
僕は時計を見てぎょっとした。
「わ、もうこんな時間!」
塾に行かなきゃいけない時刻である。僕は残念な気持ちでその事実をカナエちゃんに伝える。カナエちゃんは何とも言えない複雑そうな顔をする。
「そうだよね……いつまでもつきあわす訳にいかないもんね」
「カナエちゃん……」
カナエちゃんは力なく笑った。
「あはは、大丈夫よっ。これでも一人で遊ぶの慣れてるから、横溝先生のイラストはじっくり考えられる」
彼女はまるで痛いのを我慢しているようだった。能面すぎるほどに完璧な笑顔が、逆に何かを隠そうとしているのではないかと思わせる。
彼女は生きているのが退屈だと言った。きっとあまり学校に来れないがゆえに、本当の部分を見せられないんじゃないかと思った。実際皆に病弱の影響で、大人しい子だと思われたほうが都合も良かったのかもしれない。
だけど、彼女の中ではそれがとても退屈でしょうがなかったのだろう。放課後の教室で死体のなりきりをしていた。それはやりかたかったのかもしれないし、誰かを待っていたのかもしれない。この想像は邪推すぎるだろうか。
僕は思い切って言った。
「明日も、考えよう。カナエちゃん」
「明日?」
僕は大きく頷いた。
「そうだよ、このまま二人で考えていたことが決まらなかったら、すくなくとも一人で考えさせたら、おかしいじゃないか」
それは本当のことだったが、僕は自分の発言に頭を横に振った。僕が本当にいいたいのは、もっと単純なことだ。
「あの、僕は、カナエちゃんと遊びたいんだ……」
全然大人しくなくてちょっと風変わりな君が、気になってしょうがないのだ。僕は心のなかで呟いた。
カナエちゃんは目を丸くしたが、急にあわあわしだした。
「え、私と遊びたい??」
「うん」
「すぐ学校休むし、寝込んじゃうんだよ」
「でも遊びたい」
彼女はなにか逡巡するように視線を回したが、やがてぷっと吹き出した。
「ま、いいか……あのさじゃあさ、つまり私と君って友達ってことだよね。遊んだりするんだから」
「そ、そうだね」
関係をちゃんと明言されると、恥ずかしくなるこの現象は一体何なんだろう。僕は頬をポリポリとかいてる横で、彼女はとびきりな笑顔を浮かべた。
「へへ、ふへへ」
彼女は軽く息を吐いた。
「やった、初めての友達だ」
彼女はぎゅっと僕の手を握った。その温もりと肌の柔らかさに、僕は動揺する。
「よろしくね、伊月君」
「よろしく、カナエちゃん」
僕は嬉しくて、ニコニコするカナエちゃんに微笑んだ。
君は死んだふりをしている変な子だけど、ちょっと寂しがり屋で、可愛いい つづり @hujiiroame
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