同級生の相談事(その5)
「先週の月曜日の夜に殺人があったのは間違いなさそうですね。殺されたのは、部屋の住人の若い女の人でしょう」
地下鉄の駅の階段を肩を並べて降りながら、玲子にそう言った。
「でも、警察は何もなかったと言ったわ」
「どんな調べ方をしたか、ですね・・・」
玲子は、そこまでは教えてもらわなかった、と答えた。
「警察から連絡があったのは?」
「火曜日よ。今週の」
「さっきの不動産会社の人は、住人の女の人が部屋を引き払ったのは、今週の木曜日だと言ってた」
玲子はうなずいた。
「ということは、つい三日前までその女の人は生きていたということになりますね」
「じゃあ、私が先週の月曜日に目撃した殺人事件って何なの?・・・もう、何が何だか分からない」
玲子は頭を抱えた。
何か慰めを言おうとしたが、口がうまく回らない。
ちょうどそこへ上りの電車がやって来た。
ふたりは座席に並んで座ったが、何も話すことがなかった。
玲子が私鉄の駅で降りる時、
「もっと調べてみるね」
立ち上がった玲子に向かって、そう言うしかなかった。
「その不動産会社の社員はおかしいです」
家に帰ってから、玲子の相談事を話すと、黙って聞いていた可不可が、野太い声で言った。
「どうおかしい?」
「ふつう不動産会社に部屋を探しに行ったら、スタッフがまず間取りとか賃料を提示して商談し、客が興味を持った物件へ案内する。それがいきなり藤木ビルへ案内した」
「藤木ビルに空室があると知って来た客だったからだろう」
「それにしても、物件情報は最後まで渡さなかったのでしょう」
「住人が急に出て行ったから、準備ができなかったのではないかな」
「物件が空いたら、清掃業者に清掃を頼み、壁紙を張替え、鍵を変えて、物件情報を準備する。木曜日に出て行ったのに、日曜日には扉に空室の張り紙をした。早すぎませんか。しかも前の住人は今月末まで権利があります。どうしてそんなに早く次の借主を入れたがるのです。」
可不可は首をひねった。
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