同級生の相談事(その4)

張り紙にある管理会社の社名と電話番号を写メして所在地をGPSで検索し、地下鉄に降りる入口の真ん前にあるその不動産会社をたずねた。

大手不動産会社のこじんまりとしたチェーン店で、5人ほどの男女のスタッフがPCのモニターとにらめっこをしていた。

「いらっしゃいませ」

若い男性スタッフが、モニター越しに玲子を見上げた。

「あのう、この先の藤木ビルに空室があると聞いたのですが・・・」

と横から口を挟むと、玲子はすかさずバッグから名刺を取り出して男性スタッフに渡した。

有名な広告代理店の名前と玲子の美貌に気圧されたのか、

「ご案内します」

と言って、あわてて立ち上がった若い男性スタッフは、壁に横一列に掛かっている合鍵の束のひとつを取った。


「ご結婚ですか?」

男性スタッフは先を歩きながら、玲子にプライベートなことを平気でたずねる。

「いえ、仕事で遅くなるものですから・・・」

「たいへんですねえ」

三人は、そんなどうでもよい会話をしながら、藤木マンションに入った。

外壁はだいぶくたびれていたが、401号室のインテリアはまだ真新しい感じがした。

「まだカーテンが残っていますね」

そうたずねると、

「まだ今月いっぱい権利は残っていますが、急遽引き払いました。カーテンは次のかたが気に入ったらそのまま使ってほしいそうです」

若いスタッフが答えた。

カーテンを開けると、ちょうどトンネルを抜けた地下鉄の電車が急カーブを描いてゆっくりと高架を走り抜けるところだった。

午後の光を浴びた最後尾の車両の車内がよく見えた。

日曜日の午後なので吊革にぶら下がっている乗客はいなかったが、座席に座る乗客の後頭部まではっきりと見えた。


部屋をよく見ると、キッチンの床に衣類を入れたペーパーバッグや食器などが散乱していた。

「ずいぶんあわてて出て行かれたようですね」

「田舎のお母さんが急病になったので、介護のためにもどったとか・・・」

「ああ、女の人のひとり暮らしだったのですか?」

「はい、そうです」

若い男性スタッフは答えた。

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