同級生の相談事(その3)

トンネルを抜ける直前の地下駅まで下り電車で行き、プラットフォームの反対側の上り線に乗り替えた。

日曜日の午後なので空席は多かったが、わざと最後部の車両の左側の吊革につかまり、電車がトンネルを抜けて地上に出て、高架を登りはじめるとすぐに急カーブで速度を落とすのを待った。

「あそこよ」

午後の傾きかけた日差しが車内にあふれ出した時、玲子がやや目の下のマンションの部屋を指差した。

手で日差しを遮って見ると、褐色の煉瓦壁の5階建てのマンションの4階の部屋の窓に花柄のカーテンが確認できた。


次の終点のターミナル駅で降り、高架に沿ってトンネル方向へ逆に歩いた。

高架の直下は谷で、細い川が流れていた。

両側の広い河川敷は背の高い雑草で隙間なく被われ、容易に近づけない。

やむなく、高架から少し離れた細い道を直進し、地下鉄のトンネル近くの十字路を左に折れてややもどったところに、マンションが3棟ほど立っていた。

その真ん中の煤けた茶褐色のマンションがそれだ。

オートロックではないが、銀メッキのテンキーに暗証番号打ち込んで開錠するビルなので、部外者が侵入することはできない。


どうしたものかとふたりで顔を見合わせていると、ちょうど正面の階段を宅配便の業者が下りて来た。

素知らぬ顔をして業者と入れ替わりで中へ入った。

旧式のエレベータがガタピシ音を立てて4階で止った。

エレベータホールの前の廊下の右側に5つほどの部屋が並んでいた。

目当ての部屋はいちばん奥だ。

隣のマンションが3階建てなので、ターミナル駅を取り囲むように立つ高層ビル群が天高く輝いているのが望めた。

クリーム色の401号室の扉には、「空室」の張り紙があった。

ドアノブを回したが、当然施錠がしてあって開かない。

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