6話

 信濃はその巨体故にあまてらすの次にレイン・クロイン艦載機の集中攻撃を浴びていた。

 しかし、そこは世界に名だたる大和型。通常の爆撃ではびくともしない。

 しかし、問題は飛行甲板にあった。艦載機を出撃させようと飛行甲板に艦載機をあげたところで襲撃を受け、飛行甲板が壊れた艦載機等で荒れ放題になっているのだ。

 そのために信濃は艦載機を出撃させることができず、装備されている対空兵装で迎撃することになっていた。

「妾は……沈まぬ……」

 またも飛行甲板に爆撃を受ける。

 大きく揺れる艦装に信濃も思わず転んでしまう。

 しかし、信濃は拳を強く握り、口を強くむすびながら立ち上がる。

「先の大戦では……妾は……何もできずに沈んだ……」

 そして信濃は大きく叫ぶ。

「同じ過ちはせぬ! 妾は……妾は……『最強の不沈艦大和型』の信濃だ!」

 その叫びと同時に信濃に搭載された機銃や高角砲が火を吹く。

 その怒りの射撃は信濃の周囲を飛び回っていた大量のレイン・クロイン艦載機を叩き落す。

 しかし、即座に大量のレイン・クロイン艦載機が信濃に殺到してくる。

 だが、その攻撃が信濃に届くことはなかった。

『信濃! 無事であるな!』

「三笠様……」

 通信に映ったのはさきほど大演説をした三笠であった。

 三笠は信濃が無事なのを見て笑う。

『大儀! 後の対空戦闘は我らに任せよ!』

 その言葉の通りに信濃の周囲に三笠、矢矧、浜風が護衛のように入る。

『信濃、いい?』

「千歳」

 そして次に信濃に通信を繋げてきたのは同じ空母の千歳であった。

『私の艦載機はすでに周囲の索敵と空戦で空っぽ。上の指示で私と信濃で空域を制圧してほしいって話なんだけど』

「承知……すぐに出撃準備をする……」

 信濃の即答に千歳は一度微笑むと通信が切られる。

 そして信濃が飛行甲板を清掃しようとした瞬間に信濃の巨体が揺れる。

 爆撃の揺れでないことに訝し気にしながら信濃が飛行甲板を見ようとした瞬間にそれがきた。

 信濃の艦橋にぴったりとくっついているのは可変戦闘機・嵐電のキャノピーだ。

 驚いている信濃を無視してパイロットが信濃に叫んでくる。

「あまてらす航空隊の加藤清正少尉だ! 嵐電を空に飛ばすために飛行甲板を貸してくれ!」

 突然の行動に呆気にとられながらも信濃も言葉を返す。

「そ、それは構わぬ……だが、今は……破片を掃除しなくちゃ……」

 その言葉に加藤はニヤリと笑うと嵐電の機銃を掃射。

 信濃の飛行甲板にあった艦載機の残骸を吹き飛ばした。

「これくらいで嵐電なら飛べる! 飛行甲板かりるぞ!」

 加藤はそれだけ言うと嵐電を戦闘機形態にし、信濃のカタパルトから出撃する。

 そして空で大暴れを始めた。

『信濃、聞こえるか?』

「あ……三笠様……」

 そして再び通信が繋がったのは三笠であった。

『提督が本部と話をつけて信濃の飛行甲板を臨時に嵐電の出撃地点にすることにした』

 その言葉に信濃の心が痺れる。

 それは空母信濃の計画の一つであった洋上の飛行航空基地としての役割だったからだ。

『これから嵐電が続々と移ってくる。信濃はその出撃の手助けを頼む、とのことだ』

 三笠を通した笹栗の命令に信濃の返答は決まっていた。

「お任せを……!」

 信濃は艦船の時に果たせなかった役割を艦嬢になって果たす。



「守るんだ……」

 矢矧は対空兵装でレイン・クロインの艦載機を撃墜しながら叫ぶ。

 笹栗から矢矧に下された命令。それは『嵐電の出撃をさせる信濃の護衛をすること』であった。

 撃ち落としたレイン・クロイン艦載機が矢矧の艦装を掠めて落ちる。

 それを気にせずに矢矧は対空戦闘を続ける。

「今度こそ守るんだ……!」

 矢矧にあるのは守るという強い意思。それは艦船時代に由来する。

 マリアナ沖海戦では潜水艦によって大鳳と翔鶴を。レイテ沖海戦においては旗艦であった愛宕を潜水艦によって、続く撤退戦において金剛を。そして運命の坊ノ岬において日本海軍最後の希望であった大和を空襲によって失った。

 守るべきものを守れなかった。

 それが矢矧の悔い。

 だから今度は守る。

 信濃に移ろうとしていた嵐電を襲撃しようとしたレイン・クロイン艦載機を矢矧は対空機銃で撃ち落とす。

「今度こそ……守り切ってみせる!」

 この戦いの鍵を握っているのは信濃だ。信濃から発艦した嵐電は空でレイン・クロイン艦載機と激闘を繰り広げ、制空権をとろうとしている。

 信濃は矢矧が守れなかったことを悔いる大和型の艦船だ。

 それが矢矧の心に強い炎を灯す。

「やらせはしない!」

 一斉射撃によって信濃を爆撃しようとしていたレイン・クロイン艦載機が爆散する。

「自分は守る! 守りきってみせる!」

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