5話

「そうだ! すぐに嵐電部隊は出撃を……なに⁉ カタパルトが潰れていて出れない⁉ なんのための可変機構だ! 足だして歩いて出て対空戦闘をしろ!」

 小西はそう言いながら通信を切る。

 日本海軍総旗艦・あまてらすの被害は甚大であった。

 その巨体故にレイン・クロインの集中攻撃を浴び、北条元帥が大怪我を負い、艦橋につめていた多数の幕僚にも戦死者や重傷者を出していた。

 小西は別のところにいたのだが、無事だった下士官から連絡を受けて慌てて艦橋に昇ったのだ。

 そして幕僚本部で唯一軽傷で済んだ東郷と共にあまてらすの機能を復活させようとしていた。

「どんな状況だい?」

「東郷先輩」

 そこにやってきたのは北条元帥の手当を共に受けていた東郷であった。

「総司令官は?」

「気を失われた。後の指揮は私に任せる、だそうだ」

 東郷の言葉に小西は口笛を吹く。

「買われているますね」

「この状況で押し付けられても困るだけなんだけどね」

 そう言いながらも東郷の視線は日本艦隊の状況を見る。

 轟沈四、大破二。無傷と言えるのは後方にいた吉川提督の艦隊くらいだろうが。

 東郷をみながら小西も口を開く。

「笹栗の機転で艦嬢がまとまった対空戦闘を行いはじめました。この隙をついて特装艦、そしてあまてらすにも時間的猶予が生まれています」

「三笠様様だね」

 東郷の言葉に小西は軽く笑う。こういう危機的状況でも平然と冗談を飛ばせるのが東郷の胆力の強いところだ。

 そして東郷は通信機を持ちオープン回線で口を開く。

「総旗艦・あまてらす幕僚本部の東郷透大佐だ。現状、総司令官は重傷、幕僚本部も戦死や重傷を負っている。そこで総司令官から私が総指揮をとるように言われた」

 そこで東郷は一度呼吸を整えると明るい声を出す。

「安心して欲しい。現状、我々は負けているが、最後に勝っていればいいのだ」

 東郷の言葉に隣で聞いていた小西が思わず吹き出す。

 それを気にせず東郷は言葉を続ける。

「まずは対空戦闘を厳として欲しい。空域の確保が急務だ」

 そこまで言って東郷は通信機を切る。そして困ったように頭をかいた。

 だが、レイン・クロインは少しの猶予も日本海軍に与えない。

「敵艦隊が見えます!」

「志摩中佐を中心に水雷戦隊を編成!」

 オペレーターの叫びに即座に東郷は志摩を中心にした水雷戦隊を編成させる。

「志摩中佐に打電。『艦隊をお預けします。武功は切り取り放題です』と」

「了解!」

 東郷の言葉にオペレーターは即座に志摩へと打電する。

 そして艦隊をみていた小西が何かに気づく。

「空母級がいない?」

 それに東郷は即座に考えをめぐらす。

 そしてすぐに考えを纏める。

「吉川提督に通信を繋げてくれ」

「は!」

 そしてすぐに空間ディスプレイに吉川の厳しい表情が浮かび上がる。

 東郷は敬礼をしながら口を開く。

「吉川提督にお願いがあります」

『わかっている。すでに飛龍、蒼龍、赤城、加賀は対空装備で待機させている』

「それはやめてください」

『……なに?』

 吉川の機嫌が急降下したのを確認しながら東郷は説明を続ける。

「接近中のレイン・クロインに空母級がいません。これは他の海域に空母級だけが集まり爆撃をしている可能性が高いです」

『……続けろ』

 吉川の言葉に東郷は言葉を続ける。

「レイン・クロインだってこんな戦術をとってくるということは艦載機が重要だとわかっているはずです。でしたらこちらもその艦隊を爆撃して潰すことにしましょう」

 東郷の言葉に吉川は顎を撫でながら考える。

『ふむ、確かに北方でも空母級が独立して動くことがあったが……承知した。飛龍達には爆撃装備にし、発見次第爆撃して沈めろということだな』

「ご明察です」

 東郷は吉川の言葉に頷く。

(やっぱり歴戦の提督は話が速くて助かる)

『だが偵察はどうする? 今回の大艦隊で空母はあまてらすと私を除けば九鬼老人と笹栗という若造しかないだろう?』

「すでに九鬼大佐に部下が連絡を……ああ、すでに九鬼大佐は周辺に偵察機を飛ばしているそうです」

 東郷の言葉に吉川は大笑した。

『承知した。こちらは九鬼老人の報告を待つ』

「お願いします」

 そう言って東郷は通信を切る。

 そして東郷は首を鳴らす。

「さぁ、みんな! 生き残るぞ!」

 東郷の言葉にあまてらすの艦橋からは鬨の声があがるのであった。

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