3話
横須賀での大会議に出席した笹栗と三笠は対馬へと戻り、作戦の概要を他の艦嬢達に説明し出撃準備に入っていた。
そして集結地点であるチューク基地への出港当日。笹栗は軽トラに艦嬢達を乗せて対馬の中を走っていた。
そして荷台に乗っていた那智が体を伸ばして運転席の笹栗を覗き込む。
「おい貴様、どこに向かっているんだ」
「出撃前の祈願……ってことで古くからの知り合いの神社に向かってます」
その言葉に驚いたのは助手席に座っていた浜風であった。
「鷹狩りではなかったのですか?」
「おい貴様また浜風にでたらめを教えただろう」
「浜風は純粋ですよねぇ。那智さんなんかこんなに汚れているのに」
「喧嘩売っているのか貴様ぁぁぁぁぁぁ!」
今にも身を乗り出して笹栗を絞め殺そうとする那智を三笠が苦笑しながら宥める。
不満そうにしながらも那智は再び荷台へと体を戻す。荷台には三笠、信濃、千歳、那智、矢矧が乗っているので少し狭い。
体が落ち着かないのか少し動きながら千歳は口を開く。
「でもこの方角だと厳原のほうね」
「……そういえば千歳。鳳翔殿から頻繁に千歳が脱走して厳原に行っているという報告を受けたのだが」
三笠の言葉に千歳は明後日のほうを向いて口笛を鳴らしている。その姿は上官である笹栗にそっくりである。
「あ……町内に……」
いざ三笠が千歳にお説教を始めようとすると、信濃が思わずつぶやく。その言葉の通り軽トラは厳原市内へと入っていた。
そして対向車線を走る車から思わず二度見を食らいながら笹栗艦隊一行は走る。
そして目的地に到着した。
「これは鳥居ですか」
矢矧が荷台から降りながら呟くと、運転席から降りてきた笹栗が頷く。
「八幡宮神社……まぁ、単純に厳原八幡宮とも言います」
そして歩き出す笹栗に艦嬢達もついていく。
鳥居は道路に面していたためにそうでもなかったが、神門までくると厳かな雰囲気が漂っている。
「参拝している方は少ないのね」
「常日頃から熱心に参拝している人のほうが少数派ですよ」
千歳が周囲を見渡しながら言うと笹栗は笑いながら答える。
そして一行は本殿に到着し参拝する。
それぞれが思うところを願う中で、笹栗は熱心に祈っていた。
それを那智は胡散臭そうに見る。
「貴様はそんなに殊勝な心掛けをする人間だったか?」
「まぁ、この神社は特別なんです」
祈りのためにとっていた軍帽をかぶりなおすと、笹栗は社殿の棟札銘が見える位置に移動する。
そこには『願主宗右馬刑部少輔惟宗朝臣貞成』『大檀那守護惟宗朝臣宗都都熊丸』『摠奉行篠栗新左衛門尉源栄』とあった。
首を傾げながら三笠が口を開く。
「これがどうかしたか?」
「摠奉行を務めている篠栗栄が自分の御先祖様です」
笹栗の言葉に艦嬢達はぎょっとした表情を浮かべる。神社の摠奉行を務めるのはその土地の名家の可能性が高いからだ。
おずおずと言った表情で信濃が口を開く。
「そなたは……名家の生まれ……なのか……?」
信濃の言葉に笹栗はからからと笑う。
「一応は対馬を支配していた対馬宗氏……その一門衆だったと聞いています」
その言葉に三笠達は益々驚く。笹栗の言葉が確かならば数百年は続く旧家だからだ。
「まぁ、そうは言ってもうちの初代……ここにいる篠栗栄は元倭寇で、宗貞成に捕まって命と引き換えに仕えることになった……って伝わってますね」
「それでも少なくとも七百年続いているってことになりますが」
「よく続いているよなぁ」
浜風の言葉にどこか達観した様子で答える笹栗。
「で、まぁ我が笹栗家は代々対馬宗氏の貿易や水軍を預かってきた一族でして、当主は決まって栄を名乗る風習があるんです」
「……いつだか言っていた船乗りの家系とはそういうことか」
「そういうことです」
三笠が顔を顰めながら言うと、笹栗は笑顔で答える。
「で、そんなわけで何かある時はご先祖様の加護をもらおうとここに参拝しているんです」
そう言いながら社務所に雑に置かれていたおみくじを笹栗は引く。
そしてそれを開いてにっこりと笑った。
「大吉。今回の作戦もうまくいくかもしれませんね」
二一〇〇年五月二十一日。笹栗艦隊出撃。
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