第四章 休息の日々

 対馬泊地笹栗艦隊司令棟。ここは司令棟となっているが、司令室やブリーフィングルームだけでなく、所属艦嬢や司令官である笹栗の住居スペースも完備されている。

 そして司令室では司令官である笹栗と艦隊旗艦である三笠が書類仕事をしていた。

「浜風の艦装の修復はどれくらいになりますか?」

「中破したからな。一週間はかかるだろう」

 その言葉の通り、停泊している浜風の艦装は修復中であった。

 それを眺めながら笹栗は口を開く。

「不思議なものですねぇ。中破した艦艇が勝手に修理されていく光景は」

「人間の体も自然治癒能力はあろう。それと同じことだ」

「艦嬢の艦装は人の体と一緒ということですか」

「その通りだ」

 三笠の言葉に納得した様子を見せながら報告書を書き上げる笹栗。三笠は書きあがった報告書を受け取りながら頷く。

「時代は変わっても報告書が手書きなのは変わらんのだな」

「何度かデータ打ち込んで送信でもいいって論争にはなるんですが、結局『情報漏洩が恐ろしいから』ってことで手書きになるんです」

「我は手書きのほうが好きだぞ?」

「三笠さんは古い方ですからねぇ」

「それはちょっと傷つくから言わないで欲しい」

 三笠の笑いながらの言葉に笹栗も笑う。

 そして笹栗は真面目な表情になった。

「それで大本営からせっつかれている三笠さんのZ旗についてなんですが」

「う~む」

 笹栗の言葉に三笠も腕を組む。

 笹栗艦隊は南シナ海掃討作戦から帰還してから、幾度となく三笠のZ旗についての検証を行っていた。

 それでわかったことがある。

「三笠さんのZ旗は味方艦隊……これは友軍艦隊に有効なのかは未検証ですが、少なくとも旗下の艦隊の射撃性能と射撃威力の向上、そして装甲……というよりは防御性能ですね。これがかなり向上していることがわかりました。そして空母の艦載機は空戦能力があがっています」

「よもや千歳の艦載機部隊で数で圧倒する信濃の艦載機部隊を撃破するとはなぁ」

 空母の検証において信濃と千歳の艦載機部隊で演習を行ったのだが、数的不利であった千歳の部隊は三笠のZ旗の加護を受けて信濃の艦載機部隊を倒してみせたのだ。

 それで信濃が自信をなくしてまた自殺しようとしたこともあったが、それは兎も角。

「欠点と言えるのは三笠さんに私が乗艦していないと発動しないということでしょうか」

 無敵とも思える三笠のZ旗。唯一の欠点がこれであった。指揮官である笹栗が三笠に乗艦していなくては発動しないのだ。

 試験的に笹栗が那智に乗艦し三笠がZ旗を掲揚してみたが効果はなかった。

 笹栗は万年筆で自分のでこを押しながら天井を見上げる。

「三笠さん」

「なんだ?」

「これ大本営に報告したらうちの艦隊東奔西走の出撃騒ぎになりませんかね」

「友軍艦隊への効果次第であろうが……まぁ、引っ張りだこであろうな」

「俺の対馬での平凡提督生活よさらば!」

「提督業についた時点で平凡な生活とはお別れしていよう」

「それもそうですね、っと」

 笹栗は最後に自分の署名をすると書いていた報告書を三笠に渡す。三笠もその報告書を受け取ってから黒いバインダーに入れる。

「ではこれは対馬基地司令官の阿比留大佐に渡してこよう」

「お願いします」

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