3話

 横須賀鎮守府艦嬢建造工廠。ここでは艦嬢の艦装の建造や改装が行われる施設であった。

 その中で建造しているのは笹栗に建造された艦嬢である三笠、信濃、千歳、那智、矢矧、浜風であった。

 全員が自分の艦装を建造している中で、三笠は同僚である艦嬢の艦装をみつつ呟く。

「本当に我が一番のポンコツなのか……? 確かにみな我より全長はあるが、速力は我のほうが上とか……」

「残念ながら当方達のエンジンと三笠様のエンジンには天と地ほどの差がありますので、当方達が三笠様より遅いということはありえないかと」

「浜風……! 言い方……!」

 那智の言葉に浜風が不思議そうに首を傾げるのと三笠が崩れ落ちるのは同時であった。

 信濃は焦った様子でわたわたしていて戦力にならないので、千歳が口を挟む。

「ですが三笠様。私達艦嬢にとって三笠様は特別な艦嬢ですから」

「う、うむ。千歳達が我を尊敬してくれているのはわかっている」

 その言葉の通り、三笠の建造を知った横須賀鎮守府にいる艦嬢達はこぞって三笠に挨拶に訪れていた。前線に配属されている艦嬢からも挨拶の通信が入ってしまい、通信ラインがパンクして三笠の指揮官である笹栗が始末書を書くことになったのは完全に余談である。

 そして三笠は起き上がりながらため息を吐く。

「我と千歳達は投入された戦争は四十年も離れてはおるまい? それだけでここまで性能に差が出るものなのか……」

「人間にとって争いは進化の歴史故……」

 三笠の言葉に信濃が付け加えると、三笠も悲しそうに首肯した。

「悲しいがそれが事実であろうな。人間は争いで進化する。レイン・クロインに対抗するために我達が現れれば、その技術を利用してさらなる技術発展を遂げた。創造主たる人類に対する思いではないが、我は少し人間が怖くなる」

 三笠の言葉に全員が黙る。だが、すぐに矢矧が口を開いた。

「少なくとも閣下は信用に足る人物かと」

 矢矧の言う通りであった。笹栗は建造された三笠達と友好を深めようとそれぞれの艦の装備やスペック、艦歴まで詳しく調べていた。

 そして資料が不十分な部分は本人達に聞き取りを行ったのだ。だが、そこに嫌味はなく、純粋に好意を感じ取れた。

 少なくとも三笠達は笹栗に対して好意を持った。

 すると那智が吐き捨てるように口を開く。

「うわべっつらを繕う真似は誰にでもできる。問題は俺達を率いる能力だ」

「……まぁ、それについてはおいおいわかるであろうな」

 那智の言葉に三笠は苦笑しながら言う。

 そして三笠は真剣な表情になって口を開く。

「ところで我が一番早く建造が終わりそうなんだが、これって戦艦という区分的にどうなのであろうな」

「「「「「…………」」」」」

「無言も……ことのほか辛いものだな……」

 どういってもフォローできないと気づいた笹栗艦隊の艦嬢達は無言という選択肢を選んだが、それも三笠を傷つける結果となった。

「お、三笠さんはもう出来上がりそうだな」

「貴様ぁ! 余計なことを言うなぁ!」

「ええ⁉ なんで俺、那智さんに怒られるの⁉」

 そこにやってきた笹栗。たぶん笹栗的に見たまんまなことを言っただけであろうが、その言葉は三笠を傷つけることを那智達は知っていた。

 その証明のように三笠が崩れ落ちている。

「ええ、と。とりあえずみなさん、ちょっといいですか」

 笹栗の言葉に艦装を建造中であった艦嬢達が笹栗のところに集まってくる。

 三笠達は気分的に工廠にいただけであり、本来は艦装の建造は艦嬢が立ち会う必要はない。遠くにいすぎてもダメだが、ある程度の距離は離れても問題はない。

 空間に浮かび上がるようにできあがっていく艦装の姿を眺めながら、笹栗は教本を片手に笑う。

「現代史……主に日本を中心にした各国の状況の授業の時間です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る