第114夜 怪獣の百合 「つよきいきもの」

 私は比類なき強さを持つ怪獣であるのだが、別に世界を滅ぼすつもりもないので山奥で暮らしている。この山の主である大蛇も、怪獣殺しの功績を欲した人間たちも、誰一人私には敵わなかった。尾の一振りで半身が消し飛び、二度と立ち上がることはない。

 そんな私のもとに、毎日やってくる娘がいる。人間の中でもだいぶ小さめの娘である。娘は木造りの籠に食物を入れて現れ、それを私の口に投げ込んでくる。娘は翼の古傷を大怪我だと思い込み、看病のつもりでここに来るのだ。だから、食物を持ってこれない時などは泣いて謝る。私は力が強すぎるから、頭を撫でて慰めることもできない。

 娘は村でのあれこれを話す。魚の不漁であることとか、武器屋の夫婦に産まれた赤子のことだとか、つまらない話ばかりする。つまらない話ではあるのだが、私は娘が来たときは必ず目覚めるようにしている。そうしないと死んだと思って騒ぐのである。

 娘が来てから、私はずいぶんと弱くなった。血の臭いを怖がるものだから、挑み来る戦士たちを殺せないようになってしまった。咆哮で意識を飛ばすだけだ。何を食べずとも生きていけるのに、娘が来ると腹が鳴る。食えば満たされる訳でもないのに。

 娘は今日、白くてふわふわしたものを肩に担いでやってきた。それを花冠と言うが、どう見ても娘の頭に乗る大きさではない。すると娘は、私によじ登ってその花を頭に取り付けた。私はまた弱くなった。これでもう、花を踏むことすらできない。

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百合百夜 第二集 謝神逸器 @syagami

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