第113夜 泉の百合 「私が落とした女神について」

 泉の女神と交際している。一目惚れされてしまったのである。通学路にある泉に誤って参考書を落としてしまったとき、女神が持ってきたのは金の参考書でも銀の参考書でもなく花束だった。聞くに、女神は以前から私に恋をしており、何か物を投げ入れてくれるのを待っていたらしい。その変な不器用さが可愛くて、私は告白を受け入れる。

 女神とのデートはもっぱら泉の中で、息のできる水中であれこれお喋りするのは楽しかった。それに、優越感もあった。大学生とか社会人の彼氏持ちの友達はいるけど、私の交際相手は女神なのだ。なんというかランクが違う。存在の。

 とはいえ、女子高生と大人との恋愛なんてそうそう上手くいくようなものじゃない。女神が泉から出られないことが、本当はずっと不満だった。もっと色んなとこでデートしたいし、くれるプレゼントだって他人の落とし物ばかりだ。逢瀬のためにこそこそと入水するのも、少しずつ億劫になっていった。

 結局のところ、私は女神のことをちゃんと好きなのだと思う。ブランドじゃなくて純粋に。だから私も、真っ当に愛してほしかったのだ。女神らしさとか要らないから、人間臭くて抽象的で、でもオリジナルな愛とかで。

 誕生日の今日、女神はシルバーの指輪をくれた。でも私は、それが泉パワーで複製された草の輪だと知っている。そういうとこだよ。草の輪でいいよ。そういうとこ。

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