第112夜 物々交換の百合 「ワラシベエフェクト」

 部長が飲みさしのスポドリをくれた。帰路はそこで分かれたけど、すぐ先にあったゴミ箱にそれを捨てることはしなかった。自販機、ベンチ、外灯、花壇。その花壇の一角で、花から小火が起きていたのだ。私が慌ててスポドリを注ぐと、無事に鎮火した。

後ろからやってきたお姉さんの話を聞くと、煙草を落としたことが原因らしい。お礼にと手渡されたのはミネラルウォーターだった。お姉さんが鎮火のために自販機で買ったのだ。釈然としないままそれを持って歩いていると、咳をする老婆と出くわした。

 私の渡した水を、老婆は有難そうに飲んだ。手製の飴玉を誤って飲み込み、喉を詰まらせこそしなかったもののひどく咽てしまったらしい。老婆はお礼にと件の飴玉をくれた。釈然としないまま歩いていると、木の下で泣きじゃくる幼女と出くわした。

 幼女が指さしているのは木の枝に引っ掛かった帽子で、私はソフト部内準最強のピッチングで飴玉を投げ、それを撃ち落とした。駆け付けたのはその子の父親で、高名な映像監督らしい。私の投球に感銘を受けた彼は、私に女優を目指さないかと口説く。釈然としなかったので断った。そして、他の人を推薦した。

 三カ月後の撮影で、部長は完璧なイメージガールを演じてみせる。現場に同行した私に向かってはにかんで、部長が飲みさしのスポドリをくれた。まだ白んでいる飲み口に、私はそっと唇をつける。そう私は、ずっとこれが欲しかったのだ。

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