第108夜 剣士の百合 「執行猶予」

 剣だけが取り柄の私に、まさか弟子ができるだなんて思わなかった。まだ十二かそこらの少女である。この子は借金を返せなくなったがために私が始末した女の娘で、その亡骸を踏み越えて押し入れから出てきた。そのまま隠れていればよかったものの、私の剣技に惚れ込んでしまったのだという。その丹力を見込み、私は弟子入りを受け入れる。


 とはいえ、最初は雑用として使い潰すつもりだった。親殺しを見ても平然としていられるなら、私の血に濡れた生活の世話もできようと思っただけだ。しかし弟子は剣士としての筋がよく、戯れに持たせた真剣で燕を斬り落としてみせる。これなら私の技も受け継ぐことができるかもと、本格的な指導に入った。


 私の扱う流派の奥義は、忘れ名の太刀と呼ぶ。高速の抜刀は相手に斬られたことを悟らせず、言葉で教えるまで生かし続ける。真に活殺自在なのだ。「よく動く死体だ」と聴かせてやった標的が、驚きながら両断されゆく様を見るのが好きだった。けれど今は残念に思う。愛しい弟子の首を、出会った時点で既に斬ってしまったことを。


 私と弟子は不自由なく暮らしている。交代で飯を作り、買い物に行って、人を殺し、稽古をし、じゃんけんで勝ったほうから風呂に入り、隣で眠り、弟子が少しだけ早く目覚める。いつでもこの子を殺せると思うと、生意気な性格も許せてしまう。けど、このまま一生過ごしてしまうかもなと、最近首筋にできた薄い赤痣を撫でながら思う。




 

 

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