第107夜 寿命が見える百合 「タイムリミットまであと、」

人間の頭の上に数字が見えるようになり、私はひとまずそれが指すものの解読に努める。大抵の人間が九桁持ちで、その数値は一秒に一のペースで減っていく。六十かけ六十かけ二十四かけ三六五を計算した時点でアタリはついていたけれど、残り一桁の青年が車に撥ねられる瞬間を見て確信に変わった。私が見ているのは、寿命の秒数なのだ。


 自分の寿命を計算するのは怖かった。けれど大学の友人と比べても数字が大きめなので、思い切って三一五三六〇〇〇で頭上の数値を割ってみる。結果は六十九ちょいで、私は九十そこらまで生きるらしかった。それで安心しきった私は、はずみで恋人の寿命まで計算してしまう。愕然とした。恋人はどうやら、二百歳まで生きるらしい。


 気品あふれる恋人は、言われてみれば人外じみている。そもそも、今が本当に同い年なのかも怪しかった。この人とずっと一緒に居られるだろうか。尺度が違いすぎないだろうか。私は私だけが老いていく未来を想像して泣く。恋人は泣く私にそっとキスをして、そのときに目を瞑らなかったことで異変に気付く。キスひとつで恋人の寿命が一年分減ったのだ。慌てて手鏡を覗くと、私の寿命は一年分増えていた。


 私がキスを拒むようになっても、恋人は私の隣に居てくれる。他の方法で愛してくれる。知らなきゃよかったとは思わない。でも私たちのキスには明確な回数制限があって、それを半分以上使い込むには、恋人を愛しすぎている。

 

 

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