第104夜 踊る百合 「踊らぬ阿呆のラスト・ダンス」
世界滅亡を前に人々が取った行動は、全人類を巻き込んでの一大ダンスパーティーだった。巨大隕石とダンスにどんな因果関係があるかは分からない。なにせ、それを研究するべき学者さえも、全員揃って踊り狂っているのである。
日本における最大のダンスホールはやはり東京で、外に出た私は東京音頭を踊る大群に巻き込まれる。学校に忘れ物を取りに行こうとした矢先である。この時は隕石の襲来すら知らなくて、スマホ越しに末法の世界情勢を知ったのだ。鳥取砂丘を取り囲んだマイムマイムが行われているライブを見た段階で、スマホの画面が粉々に砕ける。「よいよい」のリズムで鳴らされた数百万の手拍子が、強大な衝撃波を生んだのだ。
私は焦った。これではもう、誰とも連絡を取ることができない。最期の言葉を交わしたい訳じゃない、でも、一緒に踊りたい女の子がいたのだ。思い出したのは去年の夏だ。手を取り合った瞬間にオクラホマミキサーの鳴り止んだ、学園祭の夜。
彼女を探すため、私は祭囃子の中をひたすらに駆けた。案の定私はもみくちゃになり、人の波から弾かれる。そこは夜の校舎で、私はせめて忘れ物を取りに行くかと中に入り
――「ねぇ、私と一曲踊ってくださいませんこと?」
踊り場に、私を待つ君がいた。そうそう、最初から抜け出しちゃえばよかったんだよ。私たちの踏む乱雑なステップを、空からのスポットライトが照らした。
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