第4話
しばらく森を歩くと、大きな川に行き当たった。なら川沿いに上流の方へ向かおうか、と提案すると、ポラリスがそれを遮った。
「秘宝を手に入れるには、この川を渡る必要があります」
「そうなの?」
「そうなのです」
「そうか」
「……」
もう完全に冒険ではなくツアーだ。案内役付きの。しかもろくに生物も出てこなければ異世界特有の超常現象のようなものもなにひとつ起きない。地球の、どこか樹海でも同じ事が出来そうだった。その場合熊や猪や蛇の危険があるのか?なんにしろ意外性が無さすぎてつまらん。
「このツアー失敗してない?」
「ツアーって言うな」
ムッとした声でポラリスが言う。
「なんにせよ、退屈過ぎてつまらんよ。カップルなら確実に別れさせれるレベル」
「……それは問題ね」
「……っ」
当の退屈の一因である口下手人見知りオプション搭載型のツインテールもぶんぶんと頷いている。テコ入れの必要性を感じているようだ。嘆息してポラリスが言う。
「とりあえずなにかイベント考えるから、2人で橋を作っててちょうだい」
「橋?この川幅の橋を架けるのか?たった2人で?」
素人目で見ても大変なんて言葉じゃ片付かないレベルで大工事だ。川幅は50メートル以上ありそうだ。川の深さはわからないが、そんな所に少年少女が橋を架けようと思ったら何年かかる事やら。
「良いから、時間をちょうだい」
言って、ポラリスは斧を取り出す。おい、今どっからそれ出した。
ポイと地面に放ると、ポラリスはまた上空へと舞い戻ってしまった。もしかしたら電波でも送受信しにいくのかもしれない。
「ったく、橋架けろって簡単に言ってくれるよ」
放り出された斧を取る。と、ミユちゃんが対面から斧の柄を握った。
「えっと……」
「使い方、教える」
「あ、はい」
ふんす、と鼻を鳴らすミユちゃんに斧を渡す。すると、くるりと背を向けた。そしてちらりと此方を見てくる。
「ふたりで、使う」
「……なるほど?」
どうやら2人用の斧らしい(2人用の斧ってなんだ?)。
「これで良いのか?」
恐る恐る、ミユちゃんを包み込むようにして背中側から斧を握ると、きゅうと音を鳴らしながらミユちゃんは頷く。顔は見えないが耳が真っ赤だ。
斧の柄は長くもなく短くもなく、2人の手が収まるが、密着させないと握れない仕様になっている。なんだろう、手のサイズを予め測ってたんだろうか?あまりにもぴったりじゃないか?
「よし、じゃあ行くよ」
「うんっ」
手近な木に振りかぶって、斧を突き立てる。動きづらい事この上ない。緩慢な斧の斬撃はしかし、バターを切るよりも簡単に木を両断する。明後日の方向に倒れた木に唖然とする
「すげー威力」
「……っ」
ふんす、と鼻を鳴らしながら得意げにミユちゃんは頷く。
「しかしこれ、運ぶ時はどうするんだ?」
「まずっ、加工する」
「加工?」
尋ねると、ミユちゃんは両側に取手のついた鋸を持ち出す。だからどっから出したんだよそれ。そのまま倒した木の側に立つよう促される。
「これで、撫でるみたいに、やる」
「さいですか」
木の左右に立ち、2人用の鋸を押したり引いたり。ゆっくりと木を上から下まで撫でるようにすると、鋸の通った後の皮が捲れて、倒木から木材へと変容していく。……どうでも良いけど鋸はこういう道具じゃないからね。
「どういう原理なの?」
「魔法!」
「魔法?」
「うんっ!」
詳しい説明は無いらしい。まぁ魔法以外には無いでしょうけど。あるとしたら超能力だろうか。アノマリーという線もありうる。
「そしたら、こうっ!」
今度はミユちゃんが自主的に動く。取り出した手袋で木材を軽々と拾い上げると、ひょいひょいと走って川へと投げ込んだ。どうやら水深は浅めらしい。それにしても、
「そこはひとりでやっちゃうんだ?」
「はっ……!!」
ミユちゃんは慌ててもう1組手袋を取り出して僕に差し出す。
「2人用の手袋」
「ありがとう」
2人用の手袋ってなんやねん……。
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