第3話


「僕には小学生の頃からの幼馴染がいてさ」

「……」

「……へぇ」


 唐突だが、僕の幼馴染の話を聞いて欲しい。小学6年間、中学3年間、合わせて9年間の間ずっとクラスが同じだったにも関わらず、一度も同じ班にはならなかった幼馴染の話だ。小学校では月に一度、班決めが行われ、30人が5分割される。中学では班という取り決めは無かったが、それでも席替えが月に一度行われ、そこでもそいつとは一度も隣同士にならなかった。だけど僕らは仲が良かった。毎日一緒に登下校した。朝、僕が呼びに行く事もあれば、あいつの方から呼びにくる事もあった。


 それも高校に行けば無くなった。僕は近所の底辺高校に進学し、あいつは中町の進学校に。はっきり言って後悔している。学力的には不足だったが、それでも底辺高校に通うよりかは、気心の知れた人間のいる学校の方が良かったと、今になっては思う。すごく後悔しているのだ。あるいは、底辺高校でも、友達を作れば良かったのかもしれない。でも僕は、どうしても馴染めなかった。笑えなかった。会話についていけなかった。周囲の人間が笑っている事の、何が面白いのかがわからなかった。あるいは、そこでも、周囲の人間に合わせて笑えば良かったのかもしれない。でもそうしなかった。どうしても出来なかった。たまに街中で、僕の知らない友達に囲まれて楽しそうにするあいつに会った。羨ましかった。そんなにたくさんの友達が出来たんだなって、素直に喜べない自分が心底嫌いになった。あるいはあの時、あいつに声を掛けていたら。あいつと、その友達と、友達になれていたら、僕はもう少し救われたかもしれなかったのに。僕は背を向けた。見てられなかった。惨めだった。情けなかった。こんな気持ちであいつと会って、自分が何を口走るかわからなかった。だから逃げた。見ないふりをして、感情に蓋をした。良いことばかりじゃないけれど、悪いことばかりでもない。ありきたりで、ありふれた、何の価値も無い人生。それでいいと諦めた。結果、ろくでもない人生と評するに値するだけの、くそみたいな人生が出来上がった。生きている意味が無い。死ぬほどの勇気こそ無いけれど、希望も何も見出せない。そんな人生。あるいは彼女の一人でもいたら、それも違ったのかもしれないけど。


「……それで質問があるんだけど」

「……っ」

「それは私に?それともこの子に?」


 僕が話しかけると、ミユちゃんはびくりと背筋を伸ばし、ポラリスは怪訝な様子で応えた。ちなみに今は腕を絡めてはいない。手も繋いでいない。残念です。


「いや、もしかしたら僕の後悔がこの現状を生み出しているのかな、と思って」


 どうせこの2人はこの件の共犯なので2人に問い掛ける。わかる方が答えればそれで良いと思う。


「全く関係ないわね」

「そうか……」


 ポラリスにぴしゃりと言われた。関係あるかな、と思ったのに長々と痛いというか重い話を聞かせただけになってしまった。


「ちなみに2人はいつから知り合いなの?」

「それはね──」

「初対面!!」


 何気なくかけた質問に、ポラリスも何の気なしに答えようとすると、ミユちゃんが大声で遮った。正直驚いた。


「おー、大きい声出るじゃん」


 ボッと赤面し、


「もうバレてんだから良くない?」

「ダメ!!」


 ポラリスの呆れ混じりの声にも断固として否と唱える。いや、もうそれ、認めたようなもんだけどね?


「そっか、初対面なのか」

「そう、初対面らしいわ」

「……っ」


 鼻息荒く頷くミユちゃん。どうやら融通の効かない子のようだ。


「昔からこうなの?」

「そうよ。この子は昔から……」

「しょ!た!い!め!ん!」


 人見知りないし融通の効かないのは昔かららしい。昔からの友人かー、羨ましいなー。今となってはあいつとも疎遠だしなー。連絡取れば遊んでくれるんだろうけど、負けた気がして嫌だしなー。


「遺伝なのかな?」

「さあ?お母さんは活発で超元気でおしゃべりな人よ。あるとしたらお父さんの方ね」

「……もうっ!」


 ツッコむのも無駄と判断したのか頬を膨らませてそっぽを向く。可愛い。会話出来ないのは致命的だけど。


「ミユちゃんは美人だし、お母さんもさぞ綺麗なんだろうな」

「そこに関しては間違いなく遺伝ね」

「……///」


 美人と言われて照れてるらしい。小声でキャーと言いながら頬を抑えて身悶えしている。可愛い。


「……冒険という手を使わなくてもこれでイケる気がしてきたわ」

「いや、僕はこれはダメだと思う」

「……?」


 ポラリスのぼやきに僕がツッコむと、不思議そうな顔でミユちゃんが振り向いた。可愛い。


「可愛いじゃない」

「愛玩用なら合格ですけど」

「……?な、なに?」

「ペット扱いかぁ、長続きしないわね……」

「然り」

「何が問題?」

「やっぱ会話出来ないと」

「やっぱそこよねー」

「ちょ、ちょっと、2人だけで話さないでよ!」


 ろくに会話出来ないツインテールが涙目で訴えてくる。可愛い。可愛いけど、おまえはダメだ。ダメダメだ。

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