第16話 初めてのお友達
「では姫、今日のご予定は聞き及んでいます。ですがご予定まではまだ時間がありますが、これから何を――」
「その前にちょっといいかしら!」
まるで挙手でもする勢いでカイトの言葉を遮る。カイトはきょとんとして、でもすぐに聞く姿勢になった。
止めたはいいものの、どうにも決心がつかないというか、言いづらいというか、恥ずかしい……。
どうしようかと目線をきょろきょろとさ迷わせてしまう。すると近くに控えていたウィスと目が合った。
「……」
ウィスは何も言わないが、しっかり目を合わせて軽く頷いてくれた。
きっとウィスはもう気付いているのだろう。私が今朝話した嫉妬している女性というのが、千鳥だと言う事を。
そうよね、ウィス。私の想いははっきりしたのだから、堂々としていればいいのだ!
私もウィスにこくりと頷いて、千鳥を真っ直ぐに見つめる。
気まずさなんて感じず、臆せず言うのだ、今言いたい事を!
「千鳥!」
「え、はい!」
突然名前を鋭く呼ばれ、千鳥はぴしっと居住まいを正した。隣にいたカイトも何事だと姿勢を正す。
私は意を決して千鳥に手を差し出した。
「私と、友達になって下さいっ!」
「…………へ?」
「…………は?」
たっぷりの沈黙の後、千鳥は理解が出来なかったというように首を傾げた。カイトも訳が分からないというような顔をしている。
あれ? 私は変な事言ったかしら?
元々、漫画を読んでいた時から千鳥とは友達になってみたいと思っていたし、実際会ってみて良い子なんだろうという事もわかった。それに同じ歳だし、気軽に話せる同年代の友達が欲しいなと思っていたのだ。
それからこれは邪な感情なのだけど……千鳥とキャラ達の今の関係性とか、漫画で語られていない普段のみんなを知りたいというか……。
だってオタクなんだもん! カイトと千鳥のカップリング大好きな私に二人の話を聞かせて下さい!
それに私の気持ちは思い出のあの子だけにあるときっちり分かった今、レイヴンが千鳥にどんなアプローチしてるのかも気になるし!
カイトと千鳥のカップリングが一番好きだけど、千鳥至上主義の私としては他のキャラが現在千鳥とどんな関係なのかも気になるのよね!
これからの楽しい未来を考えてわくわくと千鳥の返事を待つが、千鳥は申し訳なさそうに眉を下げた。
「あの、でも、私は最近ファルコンに入ったばかりだし……身分も素生もはっきりとしない私が、お姫様の友達なんて……」
「え……」
断られた……?
あまりのショックに頭が追いつかない。茫然と千鳥を見ると、カイトが横やりを入れてきた。
「千鳥の言う通りですよ、姫。俺達は貴方や王を御守りするのが使命なのですから、そんな人間と友達など、身分不相応です」
「みぶん、ふそうおう……」
あまりの衝撃に、思わずオウムのようにカイトの言葉を繰り返してしまった。
腹立つ物言いだが、カイトの言うことは至極最もだ。
前世と同じように、お互いが良ければ友達になれるわけではない。この国には庶民がいて貴族がいて、王族がいる。それぞれのカーストが存在し、むやみやたらに友好関係を築いて良いわけではない。
それは、分かっているのだけど……。
「千鳥も、私と友達になるのは、いや……?」
これで嫌だと言われたら泣いてしまうかも知れない……。
恐る恐る千鳥に聞けば、千鳥は分かり易く言葉に詰まった。うーとか、あーとか唸った後、ぎゅっと私の手を握ってくれる。
「いえ! 全然、全く嫌じゃないです! むしろ私もお姫様ともっといっぱいお話したいと思っていたんです!」
「千鳥……!」
嬉しい言葉に落ち込んでいた心が急上昇していくのがわかる。
やった! 憧れの千鳥と友達に!
千鳥もその場しのぎの嘘ではないようで、嬉しそうににこりと笑ってくれた。可愛いいい!
だがしかし、すぐに千鳥の横の男が厳しい顔で千鳥に怒った。
「千鳥!」
うっ、綺麗な人が怒ると何でこんなに怖い顔になるんだ……迫力が違うのか?
千鳥も私と同じ事を思ったのだろう。一瞬怯みそうになったが、負けじとカイトに刃向かった。
「だってカイトさん! お姫様にこんな顔をさせてまで断りたくないです! それに女の子の友達いたらなって思ってたし……」
「だからってお前……相手はこの国の王女だぞ!」
「いいじゃないですか! 同じ人間です!」
おお、流石はつい最近まで身分制度のない世界で育っていた現代っ子。言うことが縛られていなくてかっこいい。
……いや待てよ、千鳥自身がこの考え方ということは、さっき私の事を断ったのは……。
「まさか貴方、千鳥に何か吹きこんだわね!」
ギッとカイトを睨めば、彼はわかりやすくうろたえた。
「吹きこんっ……いえ俺は、姫を護衛するにあたって馴れ馴れしくせず、失礼のないようにと言っただけで……」
「それを吹きこんでると言うのです!」
びっと指さして怒れば、カイトはそれ以上二の句は告げず押し黙ってしまった。つまりもう私達の事は何も言いません、ということだろう。
これは、私達の勝利……!
「お姫様!」
呼ばれて千鳥の方を向けば、彼女はにっこり笑って両手を見せている。
「千鳥!」
私も同じように両手を上げ、千鳥と手を叩き合わせた。ぱちんと軽快な音が鳴って、私達は初めてのハイタッチを成し遂げたのだった。
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