第4話 金の瞳と熱い頬
「レイヴン、リード! やべぇぞ……ファルコンが来たっ!」
瞬間、部屋の空気が張り詰める。私の空気も張り詰める。
やったぞっ! 主人公に会える!
「レイヴン、」
「分かってる」
「俺は誤魔化せるように頑張ってみます。だから、くれぐれも突発的に行動するのは止めて下さいよ」
「ああ、分かってるよ。アナ、こっちだ」
頭の中でわーいわーいと喜ぶ私とは違い、二人は真剣に話すとレイヴンは私の腕を引き、貨物室へと入り戸を閉める。
この飛行船は商人用の飛行船らしく、客室の方が狭く、貨物室の方が広い。中には大量の木箱や荷物が置かれていて、隠れるのにはうってつけだ。
「ここで良いだろ」
レイヴンに連れられ奥へと二人で身を潜める。
窓の少ない貨物室は昼間で空の上だというのに薄暗く、日に当たっている場所ではほこりがキラキラ舞っているのが見える。
「こほっ、」
器官にほこりでも入ってしまったのか、軽く咳込んでしまう。するとレイヴンの眉は申し訳なさそうに下がり、その手は優しく私の背中をさすった。
「悪い、こんなとこに連れてきちまって……それに、ファルコンが来てるのに何で隠れるんだ、って思ってるだろ?」
ファルコンとは、王直属の
軍部とは別の指揮系統で動いており、彼らに命を下せるのは王と彼ら自身のみ。一度命が下れば、任務中その全ては隊長に一任されている。
飛竜の扱いに長けており、戦闘においてもトップクラスの人材で構成されている精鋭中の精鋭だ。
主人公が元の世界に帰る手掛かりを探すために所属した組織がここである。
つまりファルコンは正義の組織であり、その彼らから逃げ隠れるということはつまり、捕らえられる悪人側ということになる。
何を隠そう、レイヴンとリードは空賊なのである。
バッキンガム一家といえばこの国では有名で、お金持ちや悪人からしか盗みを働かず、そして盗んだものは貧困している人たちに配る、所謂義賊として市民から人気がある。
王族の一人としては頭の痛い話であるが、同時に不甲斐なさも感じ入るところだ。
王都には孤児院や貧困家庭が入居できる施設、セーフティネットも十分にあるが、地方だとその政策が行き届いているとはいえない。
王女としての立場では彼らのことは容認できないが、彼らに助けられている人たちは確実に存在しているのだ。
そして私個人としての意見で言えば、やっぱり義賊ってかっこいいよなあ、ていうか本物のレイヴン本当にかっこいいな、である。
頭の抜けたことしか考えられないのは見過ごして頂きたい。だって好きだった漫画のキャラが目の前にいるのだからしょうがない。
色々言ったが、つまり主人公とレイヴンは捕まえる側と捕まえられる側で敵同士なのだ。そしてだからこそ、その敵対関係もこの二人のカップリングの良いところなのである。
そして今、漫画のストーリーに入っているのだとしたら、きっと主人公たちは私を助けるために動いてくれているんだろう。それなのに救出対象の私が隠れるのは確かにおかしいが……レイヴンの立場から考えればそれは仕方のないことだ。
私は首を振ってレイヴンに答える。
「いえ……分かっていますから」
「分かってる……? 何を、」
「貴方達は空賊なのでしょう?」
「知ってたのか……!」
驚くレイヴンに私は頷いた。
「だって貴方は有名ですもの。名前を聞けば、見た目で分かります」
名前を聞かなくても私は分かるんですけどね……。なんてことは言えないので、取り敢えずそう伝えておく。
でも実際、レイヴンは空賊として有名だし、手配書も出ているから嘘ではないのだ。
そんな彼がいくら私を助けたと言っても信じてもらえるか分からないし、信じてもらえたとして、空賊である事実は変わらない。レイヴン達は逮捕されてしまうだろう。
ならばこの場はいったん私と、顔が知れているレイヴンは隠れ、安全なところで私一人を降ろすのがお互いにとっての最善なのだ。
そこでふと、自分がずっとレイヴンのコートを握っていたことを思い出す。
いけない、いけない。彼のトレードマークであるコートを私がずっと持っている訳にはいかない。
「あの、コート……ありがとうございました」
差し出したコートをレイヴンはすんなり受け取るが、何だか落ち込んでいるように見える。はてと思っていると、彼は眉を下げて寂しそうに笑った。
「……知ってたなら、怖かっただろ? ごめんな、怖がらせて」
「あ……」
彼はきっと私が起きた時の事を言っているのだろう。私がレイヴンを空賊だと知って、怖がって叫んだと思っているのだ。
しょんぼりするレイヴンに私は慌てて首を振る。
「違うんです! あの時叫んだのはそのせいじゃなくて!」
「じゃあなんで……」
何でと言われても、好きな漫画のキャラクターが目の前にいて驚いたとか、漫画の通りのイケメンで興奮したとは言えないし……。
あわあわと慌てる私を見て、レイヴンはやっぱりと益々しょんぼりする。
うう……レイヴンの頭に垂れてる犬耳が見えてきた……罪悪感が凄い。なんて、なんて言えばいいんだ。えーと、嘘をつかずに話すには……!
「レイヴンがかっこよくて! その、あの……どうすればいいか、わから、なくて……」
言いながら言葉がどんどんと尻すぼみになり、顔に熱が集まる。ぽかんとするレイヴンを見て、とうとう私は顔を隠すように俯いた。
言ってしまった……! 隠しつつ本当のことをと慌てたせいで、つい色々端折ってしまった。いや、嘘じゃないし本当のことでもあるんだけど、本人に言うにはこれはあまりにも恥ずかしすぎる! 穴があったら入りたい! アナだけに!
なんて頭の中で暴れまくるしか出来ない。これは絶対引かれた……だって、何も言ってこない、し……。
「え、」
そろりと顔をあげて、私は絶句した。
「っ……」
彼の顔が、あまりにも真っ赤に染まっていたから。
「……アナ、」
驚き固まる私の頬に、レイヴンがそっと触れる。
触れた手が熱い。いや、触れられた私の頬が熱いのだろうか。
ぼうっとする私を金の瞳が真っ直ぐ見つめてくる。
「俺の事、おぼ――」
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