第82話 第三皇子と序列四位


「こんな汚い宿に泊まっているのか? お前がそういう行為を望むのならば、俺も吝かではないが」


「「「「「……」」」」」



 突然現れ、一方的に話す男。



「ああ、そういえば、そこのお前」


「は、はい。俺のことでしょうか?」


「俺の悪口を言っていたみたいだな?」


「い、いえ! 決してそのようなことは!!」


「————殺せ」


「はっ!」



 命令を受け、控えていた軍服の男が、椅子に座っている男の元に向かう。



「す、すみませんでした! どうかお許しを!!」


「俺を馬鹿にするからそうなるんだ」


「い、いやだ!!」



 キンッ!



 だが、首に向けられた剣は、光魔法の結界に弾かれた。



「あ? 誰だ?」


「食堂で何やってんだクズ野郎が。食事が不味くなるだろ」


「俺にクズ、だと?」



 シーン、と食堂が静まり返る。



「お前が第三皇子か?」


「レニムル様、と呼べ。……ザックラーをったのはお前か?」


「さぁな?」


「……尤も、お前は直ぐに死ぬんだがな」


「やってみろよ?」


「シュゼルナ! コイツを殺せ!!」


「「「「「……!?」」」」」


「了解です。レニムル様」



 後ろから、軍服を着た女が現れる。


 ……うん。

 比較的、強者の部類に入るな。


 魔力操作能力から、女が魔法師であることが分かる。



「ぜ、ゼノスさん……彼女は、帝国序列四位、シュゼルナです」


「問題ない」


「え……?」



 (転移)



 その瞬間。

 食堂から、大勢の姿が消えた。




   ♢



「ッ!? ここはどこだ!?」


「街の外だ」


「何をした?」


「あそこで戦闘になると面倒だからな。全員、移動させてもらった」



 俺は自分自身とフィリナ達、第三皇子とその取り巻きの軍人を街の外の平原に転移させた。



「……どうやったのか知らんが、ここで戦って不利になるのはお前だ。シュゼルナは、帝国魔法師の頂点だからな! シュゼルナ、コイツを殺せ!! ユフィアーネは巻き込むなよ!」


「畏まりました」



 シュゼルナは、魔力を練り始める————



 ドンッ!! ドドドドドドッ!!!



 平原に、爆音が鳴り響き、土埃が舞う。


 視界が悪くなり、目視では、魔法が発動している場所の様子は窺えない。


 その場に居る者は皆、大気を震わす衝撃から身を守るので精一杯だ。


 ————それが収まる頃には、ゼオンが居た辺りの地面は原形を留めていなかった。



「相変わらず、お前の魔法は五月蝿いな……だが、よくやった」


「そ、そんな……ゼノスさんが……」



 耳を塞いでいた手を退け、シュゼルナを労うレニムル。

 そして、その光景を見て、絶望するユフィアーネ。



「いえ、すみません……どうやら、ヤツは化け物のようです」


「どういう————ッ!?」



 晴れた視界。

 そこで、その場の全員が目にしたのは、無傷のまま佇むゼオンだ。



「ゼノスさん!!」


「シュゼルナの《爆砕魔法》が効いてない、だと!?」


「固有スキルか……中々の威力だったぞ」



 ゼオンが歩き出す。



「レニムル様、離れて下さい」


「……。……分かった」


「なんだ?」


「いえ、何も? 私を倒せるものなら、倒してみなさい!!」



 火魔法に風魔法、と殺傷能力が高い魔法ばかりがゼオンに向けて放たれるが、それは全て光魔法の結界で防がれる。



「くッ……化け物め」


「じゃあな」



 ザシュッ



 シュゼルナの首が、地面に落ちた。



「……ん?」



 その瞬間。



 ドンッ!!!!



 シュゼルナの身体を中心に、これまでの数十倍の威力の爆発が起きた……




   ♢



「クソがッ!! ユフィアーネ、お前、なんてヤツを雇いやがったんだ!! 序列四位のシュゼルナまで死んだのでは、父上に怒られてしまうではないか!!」


「これは……自爆、魔法?」


「チッ! そうだぜ!! 一流の魔法師は、自分の死を引き金に、自爆を行えるらしいからな!!」


「ゼノスさん……」


「シュゼルナは、残存魔力全てと引き換えに放つ《爆砕魔法》と言っていたからな! 生き残れるヤツなんて居ない! さあ、大人しく俺に付いて来い、ユフィアーネ!!」


「————お前、学習したらどうだ?」


「っ……!!」


「な、なぜ……お前は死んだはずじゃ……?」


「あの女はよくやったよ。なんせ、俺に数年ぶりの(心の)痛みを与えたからな」



 先程の自爆攻撃?は、油断していた俺の服を霧散させた。

 一瞬で亜空間から出した服に着替えたから、誰にも見られてはいないが、外で全裸に剥かれたことに変わりはない。


 俺のプライドが傷ついたね。まったく。



「く、そが……!」


「ま、まさか、あの男は……!!」


「なんだ!? 知っているのか!?」


「は、はい! 恐らくですが……最近、瞬間移動という所業を耳にしたことがありまして……」


「それで、誰なんだ!? 早く言え!!」


「え、Sランク冒険者、ゼオユーランですッ!!」


「「「「「……!?」」」」」



 フィリナ以外の面々は皆、驚きで固まる。



「ゼオユーランは、行方不明となっている序列二位のラズノート様を殺したとの噂もございます!!」


「そんな、馬鹿な……いや、Sランク冒険者がこんな所に居るはずが……」


「居ちゃ悪いかよ? どちらにせよ、お前は死ぬんだから、そんなことは関係ないだろ?」


「ま、待てッ!! お前を雇ってやろう!」


「あ?」


「俺が父上に口を利いてやる。金も女も、いくらでも融通してやろう!!」


「要らねぇよ」


「ギャ、ギャァーッ!!」



 俺は、レニムルの腕を斬り落とした。



「や、やべろ!! 俺に手を出したら、父上が黙ってないぞ! ユフィアーネの父親も、殺されるぞ!?」


「お前らを全員殺せばいい話だろ」


「え————」


「じゃあな」



 俺は、十分に魔力を込めた風魔法で、レニムルと取り巻き全ての首を刎ねた。





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