第79話


「いや、でも……」


「自慢じゃないですが、それこそ私の冒険者仲間のミューネは世界一可愛い、と言えると思いますが? どうなんです?」


「ほう?」



 コイツ、俺を挑発してるのか!?


 いいだろう、乗ってやる!

 当然、フィリナが世界一可愛いに決まってんだろ!!



「さあ、妹よ! それを取るんだ!」


「もう……お兄ちゃんが、私を世界一可愛いと言うのなら、仕方ないですね」



 フィリナは溜め息を吐きながらも、どこか嬉しそうに、フードを取った……



「「……」」


「ふっ……」



 言葉を失う二人を見て、俺は勝ち誇った顔になった。



「綺麗な人……」


「でしょう?」



 ミューネ(仮)の呟きに、俺は同意する。



「くぅぅ……認めざるを得ませんね。確かに、フィアーナさんはミューネと争えるほどの美しさですね」


「あ? アンタ、強情だな。俺の妹が世界一だぜ」


「ミューネは……」


「いや、妹は……」



 結局俺は、依頼主が出発の知らせを持ってくるまで、イレイア(仮)と討論するのだった……




   ♢



 ガラガラガラ…… カッタンカッタン……


 馬車の中、再びフードを被ったフィリナの横に俺は座っていた。

 俺の向かい側には、ミューネ(仮)とイレイア(仮)がお行儀良く、並んで座っている。



「はぁぁぁ……暇だ」


「五月蝿いですね。少しは静かに出来ないんですか」


「うっせぇ。俺たちは何の為の護衛なんだよ。全く盗賊が来ねぇじゃねーか」


「貴方は進んで盗賊と戦いたいのですか? その歳でCランクは素直に凄いと思いましたが、やはり戦闘狂なんですね」


「違ぇよ」



 俺は、イレイア(仮)の嫌味を喰らいながらも、退屈を紛らわす方法を考えていた。



 (この商隊の馬全てに回復魔法を掛け続けても何の負担にもならねぇ……フィリナとイチャつくにも、兄妹って設定だから出来ねぇし)


「はぁ……」


「だから、その溜め息を止めろと言っているのですが?」


「……」



 ずっと、こんな調子である。



「————あっ!」


「今度はなんです?」


「あ、いや、何でもない」



 俺の常時索敵範囲は、半径約5キロ。


 漸く盗賊らしき気配を察知したが、それを馬鹿正直に伝えると、頭おかしいヤツ判定されると思うから、黙っていよう……


 二十数分後。



「敵襲! 数、三十二!!」


「……イレイア、どうやら私たちの出番のようね」


「ええ」


「やっと着いたのか」


「「?」」



 俺は目を覚ますと、俺たち冒険者が乗っている馬車の扉を開ける。


 戦況を見ると、傭兵達は数で劣るが、個々の力が盗賊の一回り上を行っている。


 だが、盗賊達も負けてはいない。

 盗賊のくせに無駄に連携が取れた動きで、数の優位を活かして、傭兵に襲い掛かっている。


 傭兵は護衛対象の依頼主は絶対に守らなければならないため、そちらに人員を割き、数の差がより顕著に現れている。


 結果、戦いは膠着状態に陥っていた。



「やぁあ!」


「はっ!!」



 そこに加わる新たな戦力……女冒険者達。



「チッ! まだ居やがったか!」



 次々と盗賊を斬り捨てていく彼女らに対し、毒づく盗賊の長らしき人物。


 二人ともがCランクらしいから、あれくらいの動きを真似して……っと。



「グァッ」「ギャァッ」「ゲッ!?」



 俺とフィリナも、彼女らと同じように盗賊を斬り捨てる。



「クッ! 撤退だッ!!」


 (クソッ! こんなに強い冒険者が四人も居るとはな……運が悪いぜ)


「逃すな! 盗賊どもを殲滅しろ!」



 傭兵の長が指示を出す。



 (今日は半分の仲間を連れて来たが、ほぼ確実に殺されるだろう……だが、俺には追い付けないぜ!!)



 盗賊を束ねる男は、レベルがそれなりに高いうえ、逃走時に足が格段に速くなる固有スキルを持っていた。

 これで、危ないと感じたら逃げて、勝てると思った相手は殺す、を繰り返して生きてきた男は、当然、今回も逃げ切れると思っていた。



「あ……?」



 逃走を始めた自分に追い付ける者は居ない、と思っていた男は、地面に膝をついた自分を不思議に思う。



「え?」



 口から大量の血を吐き、そこで漸く自分の胸に穴が空いていることに気がつく。



「な、ぜ……?」



 男は地面に倒れ、そのまま息絶えた。

 自らを殺した相手も分からずに……


 何の事はない。

 ゼオンが周囲の人が知覚できない速さで移動し、剣で貫き、元の場所に戻っただけだ。


 ゼオンが男を狙ったのは、厄介そうな相手は殺しておこうと思ったからだ……


 そして、長が倒れたことに気付いた盗賊達は、狼狽し、逃げに徹し始めたが、自力に差があるため、直ぐに殲滅された。



「いや〜、冒険者の皆さん、ありがとうございます。お蔭で助かりました」


「いえ、依頼ですから」



 依頼主の褒めの言葉に、中年女性が代表して答える。


 馬車は再び進み始めたんだが……



 (どうして見てくるんだ?)



 ミューネ(仮)が、向かい側の俺たちの方を、じーっと見つめてくるのだ。



「ミューネさん、私たちに何か言いたいことでもあるのですか?」



 と、フィリナが先に聞いてくれた。



「いえ……ただ、先程の盗賊の胸に突然穴が空いたのが見えたんです」


「そんな不思議なことがねぇ……でも、それの何が俺たちの方を見ることに繋がるんだ?」


「……傭兵の方々がやったようには思えないんです」


「へぇ……? ま、気のせいじゃない? Cランク冒険者の貴女が気付けない攻撃を俺たちが放てるわけないじゃん」


「そうですね」



 中々鋭いなこの娘。


 俺はボロを出さないように、そのまま眠りにつくのだった……




—————


 ……何故、毎回盗賊が現れるのか?

 治安悪すぎだろって?


 ゼオンが狙われやすい状況ばかりにあるのが悪いです。はい。





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