第78話 女冒険者


「あれは?」


「サイクロプス。Cランクの魔物だよ」



 俺たちの視線の先では、単眼の巨人サイクロプスが斧を振るって、鹿を殺していた。



「うわぁ……」



 鹿の血が辺りに豪快に散らばるのを見て、フィリナは少し引いた様子だ。



「気分が悪いなら、俺がやろうか?」


「いいえ。そこまでじゃないわ」



 そう言うとフィリナは、サイクロプスの死角から一瞬で足下まで移動、首目掛けて跳躍した。



 居合一閃



 サイクロプスの頭が胴体からずり落ちた。



「流石」


「Cランクの魔物は余裕ね」



 普通は、熟練の冒険者でもサイクロプスを一撃では倒せないんだけどね。



「誰かが近くでサイクロプスと戦い始めたな……Bランク一人とCランク二人のパーティーってところかな」


「戦況は?」


「剣士二人、拳闘士一人の全員が近接系で、一撃離脱で戦っているみたいだよ。このままいけば、問題なく勝てると思う」


「へぇ〜、Bランクなら、ランダールの街の筆頭冒険者ね」


「Aランクは居ないんだね?」


「そうよ。Aランクは実質的に冒険者のトップなのよ? 大陸を見渡しても、そう沢山いるわけじゃないわ」


「そうなんだ」



 他の冒険者のことはそんなに気にしたことないからなぁ……


 俺がサイクロプスの討伐証明部位を亜空間に仕舞うと、俺たち二人は街へと戻るのだった。




   ♢



「ギルドへの貢献値が一定に達したので、これでフィアーナさんはCランク冒険者となります」


「そうですか」



 フィリナがCランクになった。


 ここ二ヶ月、俺たちは定期的にこの辺りに生息する高位の魔物を狩って、ギルドに提出していた。結果、この短期間で俺たちは共にCランク冒険者となった。

 まぁ、俺の場合は偽装状態だが……



「この街では、これ以上ランクは上がらないわね」


「そうだな」



 ランダール付近の森には、最高でCランクの魔物しか居ないからだな。俺に関しては、Cランクには直ぐに上がったが、Bランクに上がる気配はないし。



「正直、これ以上のランクは要らないわね」


「ああ。そろそろ、天空の国に行きたくなってきた」


「そうね。それなら、明日にでもランダールを出ましょうか」



 天空の国。


 理由は判明していないが、広大な王都が空中に浮いている国が大陸の北西にあるらしい。

 正にファンタジーじゃん?


 その国の噂を聞いた時、いつかは絶対に行こうと決めていた。



「護衛依頼?」


「はい。ここから北にある領地まで」



 だから、翌日に受付嬢に提案された依頼は都合が良かった。



「随分と大規模な商隊みたいだけど、何を運んでいるの?」


「詳しくは伝えられていませんが……あちらで需要のある物を何種類か運んでいるらしいですよ」


「ま、商人には商人なりの考えがあるんだろ」


「それもそうね」


「丁度いいし、受けようぜ」


「ええ」



 俺としては、毎回走って移動するのも捻りがないし、久しぶりの護衛依頼に興味が惹かれたのもある。



「ありがとうございます! 此方に戻ってくるのに掛かる移動代は自己負担となってしまいますが……」


「いや、全く問題ない。元々、ランダールから出て行くつもりだったしな」


「えっ!?」



 受付嬢が驚いた顔をする。



「そんなわけで、今まで世話になった。じゃあな」



 俺たちは何かを言われる前に、ギルドを去って行くのだった。




   ♢



「ギルドからはCランク冒険者と聞いていましたが、随分と若い方のようですな?」


「まぁ、そうですね」



 三日後、俺たちはランダールの北門前で今回の依頼者と話していた。



「あぁ、いや、疑っているわけではございませんが、前の街から護衛に雇っている冒険者の方も、若いのにCランク冒険者でして……私も冒険者を目指した時期がございましたが、生憎、戦闘能力には恵まれなかったので……」


「そうなんですね」



 これだけの商隊を率いるとなれば、商才はあったんだろうな。


 依頼主は、専属の護衛を雇ってはいるが、普段よりも多くの商品を運ぶため、冒険者も追加で雇うことにしたらしい。


 現に、20人くらいの、冒険者ではない傭兵のような出で立ちの者達が、馬車や荷台の周りで馬の世話などをしながら待機しているのが見える。



「此方は新たに護衛に加わった、ゼノスくんとフィアーナさん兄妹だ。二人ともが貴女達と同じ、Cランク冒険者だ」



 依頼主の男性は、広い馬車の中で待っていた護衛の冒険者二人————17歳くらいの女と40歳くらいの女性————に俺たちのことを紹介する。



「……私はミューネです」


「イレイアと申します」



 ……嘘? 


 二人ともが偽名を使っているのか……俺たちも人のことは言えないけどね。


 俺は他人との会話の時、嘘看破の魔法を使うのが当たり前になったため、そのことに気付いた。



「よろしくお願いします」



 俺は、嘘に気付いた素振りを全く見せずに挨拶をする。



「ええ、此方こそ」



 17歳くらいの女が、挨拶を返す。


 肩で結われた薄黄緑色の長い髪に翡翠色の瞳。


 正直、フィリナに比類するほどの美少女だ————



「お兄ちゃん?」


「ひッ」


「何を考えているの?」


「いえ! 何でもございません!」



 思考時間は一瞬なのに、察知された!?


 俺は、フィリナの謎の圧力に屈した……



「————ところで、妹さんはずっとそれを被っているつもりなんですか?」



 40歳くらいの女性が探るように、フィリナが深く被っているフードについて尋ねてくる。



「いやぁ、妹は世界一可愛いので、顔を晒すと良からぬ輩に絡まれてしまうんですよ」



 俺は惚気半分に答える。


 これで、俺のことはただの兄バカだと思ってくれることだろう。



「今は女性しか居ないじゃないですか……同じ仕事をする者として、相手のことは知っておくべきだと思うんですが?」



 だが、中年女性はしつこかった……




—————


 先に言っておくと、本作にハーレムタグは付いていません。

 正直、物語への影響はそんなに無いので、どちらでもいいんですが(笑)



 Q: そんな美少女なら、今まで襲われたりしなかったの?

 A: Cランクが二人で行動していたのとあとは……運が良かったのでしょう。


 Q: なんで彼女は顔を隠していないの?

 A: 二人とも、世間知らずだからです。




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