第77話


「おうおう、お二人さんよぉ?? 命が惜しけりゃ、金目のモンを置いていきな」


「女が居るぞ! 久しぶりに楽しめそうだぜ!!」



 道を塞ぐ二人はやはり盗賊で、俺たちを発見すると近づいて脅迫してきた。



「典型的な賊だな……」


「そうね」



 俺が呆れて呟くと、フィリナも同意する。



「テメェら! 聞いてんのか!?」


「聞いてねーよ」


「ああん!? テメェ、剣を持っているから俺たちに勝てる、とでも思ってるのか??」


「俺たち二人の連携は世界一! つまり、諦めるんだな!!」


「そうだぞ————ぁ?」



 フィリナが三歩前に出ると、賊の一人の全身が凍り付く。



「な、なに!? おい、ズィーグラ! しっかりしろ!! く、そッ、この女、魔法使いだったのか! よくもズィーグラを!!」


「その涙ぐましい友情を真っ当な仕事に活かせば良かったわね」


「ちく、しょう……」



 続けて、残りの賊も完全に凍り付いた。



「行きましょ」


「ああ」



 フィリナは敵を一瞬で凍らせることが多いが、これは万能ではない。

 レベルの高い相手や、高い魔力を持つ相手には効果が小さいらしい。


 その後、暫くすると国境の門が見えて来たのだった。




   ♢



「私、初めて国外に出たわ」


「俺もだよ」


「それにしても、冒険者の身分って便利ね」


「ああ。フィリナも登録しておいて正解だったな」



 俺たちは既に入国を済ませていた。


 前に滞在した街で、フィリナの冒険者登録をしておいたのだ。冒険者ではなく、ただのシュッペルゼ王国民だったら、出国の理由とか色々聞かれただろうが、拠点を変えるために、冒険者は国家間を移動するのは珍しくないから、俺たちはスムーズに入国できた。


 何なら、「その歳で苦労してるんだな……」と国境で門番をしている人に言われたよ。


 その後は、またまたマラソンをして、太陽が沈む頃にはゴクスメラット王国西部で最大規模の街、ランダールに到着した。



「ギルドに来るの?」


「ええ」



 翌朝。

 偶には冒険者の仕事をするか、と言った俺に、自分もすると言い出したフィリナ。



「フィリナほど可愛い子が来たら、冒険者に絡まれると思うんだけど……」



 前回、冒険者ギルドに言った時は、登録しただけですぐに建物を出たけど、依頼を受けるとなると……



「そんなヤツらは打ちのめすわよ」


「まぁ、その時はその時か」



 結局、二人でランダールの冒険者ギルドに来た俺たち。



「ここは冒険者ギルド、ランダール支部です。貴方達、このギルドは初めてでしょう?」


「そうですね」


「ランクは?」


「俺がDで、妹は登録したばかりです」


「貴方はDランクなのね……Dランクだとしても気を付けなさいよ? 冒険者は皆、血の気が多いからね」


「そうですね————」


「おい、そこの女。依頼者じゃなくて冒険者なんだって? Cランク冒険者である俺様が指導してやろうか? 手取り足取りなぁ……?」



 そして、案の定絡まれる俺たち……じゃなくてフィリナ。



「妹は人見知りなんです。提案は有難いですが、遠慮しておきますよ」


「オメェには聞いてねぇよ。……なぁ、そんなモン被ってねぇで顔見せてくれよ?」



 フィリナは、フードを深く被っている。


 冒険者の男は、ゼオンのように顔がいい男の妹ならば、美人だろうと当たりを付けているのだ。

 確かに結論は合ってはいるが、残念ながら絡む相手は間違っていると言わざるを得ない。



「触らないで」



 男が伸ばした腕から後ろに逃れるフィリナ。



「あ? 俺は指導してやるっつってんだよ。生意気な口を利くな」


「下心が丸見えよ。気持ち悪いから、失せなさい」


「なんだとテメェッ!!」



 冒険者の男は、頭に血が上って、フィリナに殴りかかる。



「「「「「は……!?」」」」」



 その時、その冒険者は宙を舞い、今まさに人が入ってきて開いたギルド入り口の扉の上方から外に退場させられた。



 グヘッ!



 と、男の呻き声が聞こえてきた。


 冒険者ギルド内が、静まり返る。


 冒険者ランクというものは、強さを如実に表している。

 基本的にはレベルが高ければランクも高い。


 Cランクといえば、二十年冒険者をやっていてなれるかどうか、というランクだ。

 それを投げ飛ばしたのが年端もいかない少女だとすれば、驚くのも無理はない。


 そもそも、誰があの男を撃退したのか、見えていなかった者の方が多かったが。



「何を受けようかしら?」


「やっぱ最初は常設依頼のゴブリン討伐でしょ」


「そうなの? それなら、そうしようかしら」



 俺たちは冒険者達の視線を浴びながらギルドを出て、伸びた男を横目で見た後、街の外の森へと向かうのだった。




   ♢



 グギャッ



「不快な鳴き声ね」


「そこは慣れるしかないよ」



 草むしりのような作業のごとく、俺たちはゴブリンを狩りまくっていた。


 そして、飽きが来た頃。



「大きな魔物が居るみたいだから、あっちの方に行かない?」


「そうだな。別にランクに似合わない魔物を倒すのを禁じられてるわけでもないし」



 冒険者として無理をして、命も含めた何かを失っても、基本的には自己責任。


 ただ、目立ちたくないからDランクに偽装したのを、ゼオンはすっかり忘れていたのだが。







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