第75話


「は? 黙れ、だと? テメェ、勇者の俺に何を言ってやがるんだ?」


「ん……?」



 レベル1なのに、《威圧》が効いてない!?


 ……あ、もしかして、称号の影響か?



 俺とフィリナ以外の者は無差別に漏れた俺の魔力に、少し表情が曇っているが、勇者達は皆、その様子を見て、不思議そうな顔をしている。



「ちょっと顔がいいからって俺がお前を殴れないとでも思ったのかぁ??」


「……」



 コイツ、沸点低いな……そもそも、俺の方こそお前を殴ってやりたいんだが?



「俺の目の前で、俺の嫁になる女を腕に抱きやがって……殺すぞ?」


「やってみろよ。あんまり調子に乗るようだと、腕の一本や二本、覚悟して貰うぞ?」


「勇者の俺とやろうってのか? いいじゃねーか、やってやるよ————ッ!?」



 刹那、俺は勇者(笑)の元に高速で移動し、勇者(笑)の腕を掴んでいた。

 勇者達は、驚愕の表情を浮かべている。



「て、テメェ! 卑怯だぞ!」


「何がだ?」


「れ、レベルだ。レベル!! 俺は1レベなんだろ!? そんなん、卑怯だろッ!!」


「何言ってんだか……お前、言葉には気を付けた方がいいぞ? 俺は嘘を吐かない主義でね」


「な、何を……ギャアッッ!!??」



 ボキッ! と痛々しい音が、部屋に響き渡る。



「俺の女に手を出そうとしたんだ。これくらいは安いモンだろ?」


「グッ……お、俺を助けろ! 俺は勇者だぞ! ……何故だ? 何故、誰も俺を助けない!!」


「チッ、五月蝿いヤツだな……聖女様、コイツを治してやれよ」


「は、はい……!」



 聖女は、勇者(笑)の元に駆け寄ると、超級の《光魔法》を行使した。

 すると、勇者(笑)のあらぬ方向に曲がった腕は、みるみる元に戻っていく。



「お、おおっ!」


「すっごい……これが魔法!?」


「はい。勇者様方も、練習すれば使えるようになりますよ」


「俺、火魔法とか使いてぇっ!!」


「その辺りの話は、いずれしましょう……」


「そうだな。聖女殿の言う通り、まずは別室に行こうではないか……そこで、お主ら勇者の歓待の準備をしてあるのでな」



 国王がそう言うと、皆が移動を開始した。



「勇者様、大丈夫ですか?」


「触るなッ! 自分で歩ける!」



 心配する聖女の手を振り払い、回復した勇者(笑)も、不機嫌そうに移動し始めるのだった。




   ♢



「じゃあ、私たちはこれで失礼するわ」


「ああ、分かった」



 部屋に辿り着く前に、フィリナと俺とカナリーゼは集団から離れ、そのままフィリナの部屋へと向かった。

 まぁ、勇者(笑)はそんな俺たち……俺を睨み付けていたが。



「何よ、アイツ! 偉そうに!」


「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。フィリナ様」


「もぉおおおっ! 私を嫁にするですって? なんであんなヤツが勇者なのよ!?」


「フィリナ様、どうせ国を出たらあの勇者に会うこともないから、大丈夫ですよ」


「そうだけどっ! ふざけたセリフに寒気がしたわ! ……ゼオンくん、温めて?」


「夜になったら、いくらでも温めてあげるよ?」


「嬉しい……」



 二人だけの世界が展開され……



「はぁぁああ……私は何を見せられてるのでしょう?」


「……そう言うリーゼこそ、ガルフさんといい感じなんでしょ? 私が王都を出たら、ラキートで過ごすって言うくらいなんだし」


「えっ!? 私とガルフさんの関係が気になります? 気になっちゃいます!?」


「聞いてな———」


「仕方ないですね。教えて差し上げましょう!」


「「……」」



 ここから小一時間、俺とフィリナは、カナリーゼの惚気話を聞かされるのだった……




   ♢



「一体何なんだアイツは!! 俺は勇者だぞ!?」


「アンタ、勇者だから偉いとか思ってる系? 結婚している相手でも奪おうとするとか有り得なくない?」


「黙れ! 俺たちは勇者なんだぞ!? 好き勝手やって何が悪い!? あの野郎! 絶対に殺してやる!!」


「やめときなって。王女のお相手なんだから、きっと偉い人なんでしょ? それに、イケメンが死ぬのは世界の損失よ」


「ハッ! そんなん、俺には関係ねぇよ!!」



 あの後、別室に移動を終えて、席についた勇者(笑)は荒れていた。

 女勇者がそれを宥めようとするが、聞く耳を持たない。



「ゼオユーラン殿を狙うのは、やめて頂きたい」


「あん? 王子様よぉ……アンタも俺を止めるのか?」


「いえいえ、彼は妹が懸想している相手ですし、貴方にはこの国の貴族の一人になる自覚を持ってほしいのですよ」


「どういうことだ?」


「貴族の行いは、所属する国にも責任が問われる、ということです。妹の婚約者と言えども、一方的に命を狙われては……。……俺たちは彼の怒りを買いたくないのでね」


「アイツが何だってんだ?」


「大陸最強のSランク冒険者、その一人ですよ」


「「「……」」」



 勇者達は皆、異世界に理解がある。

 当然、冒険者という存在が居るだろうとは思っていたのだ。



「あのー」


「何でしょう? 勇者様」



 聖女が、女勇者の呼び掛けに応じる。



「この世界の冒険者のランクってどんな感じで決められてるの?」


「そうですね。まずは冒険者について話しましょうか」



 それから聖女は、勇者達に冒険者について一通り説明するのだった。




   ♢



「あのイケメンが世界最強の三人の内の一人……??」


「? ……ええ、そういうことになりますね」


「ということは、あの人が俺たちの師匠になるのか!?」


「いえ、それは違います。そもそも、彼は数日後、王都を出るらしいですよ」


「なんだぁ……」


「大丈夫です。騎士団の方は指導が上手ですし、私も微力ながら、勇者様方の手助けをいたしますから」



 聖女はそう言って、勇者達に微笑むのだった。






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