第74話 勇者召喚


 数日後。


 今日は、勇者召喚の儀が行われる日だ。



「皆様、はじめまして。私は教会より聖女を拝命しました、ティリーナと申します」



 王城の地下。


 勇者召喚を行う部屋の前には、既に同席者が全員、集まっていた。


 その中にはシュッペルゼ王国に現在、存在する唯一の聖女ティリーナも居た。

 茶髪に同じ色の瞳、内気そうな見た目で、女性にしては長身だ。


 彼女は、聖騎士を二人連れて来ていた。



「これで全員が揃ったな……付いて来い」



 従者二人を連れた王族と聖女が、国王に続く。


 俺? 俺とカナリーゼは、フィリナの従者枠だ。


 重厚な扉の先で俺たちを待ち受けていたのは、大きな魔法陣だ。



「おぉ……!」「これは……!」



 など、面々から感嘆の声が漏れる。



「伝承では、今日の12時に魔法陣が光り始める。その時、女性王族が魔法陣に限界まで魔力を流すと、異世界の勇者が召喚できる……10分後だ。備えておけ」



 国王の言葉で、その場の全員は静かにその時を待ち始めた。




   ♢



「おおっ! 本当に、光った……!?」



 10分後。

 魔法陣が光ると、フィリナとスゥージー王妃は直ぐに魔法陣に向かって魔力を流し始めた。



「「「「「……」」」」」



 皆がそれを静かに見守り、5分後。

 1分で魔力が尽きたスゥージー王妃に続き、フィリナの魔力も遂に枯渇し、強烈な眠気に襲われたのだろう、フィリナがその場で地面に倒れそうになったため、倒れる前に支える。



「ぅ……」


「お疲れ、フィリナ。寝てていいよ」



 フィリナは俺の顔を見ると、俺の腕の中で安心した顔で眠り始めた。


 そして、魔力が流れなくなった魔法陣は、徐々にその輝きを増していく————



「あああああッ!! ……なんだ!?」


「ここはどこだ!?」


「何よ、ここっ!」



 ああ、何となく懐かしさを覚える、黒髪黒目。

 日本人だな……



「勇者達よ。よくいらっしゃいました」



 聖女の、凛とした声が部屋に響き渡る。


 ……これ、テンプレートらしいぜ。伝承に従ってるってさ……



「おおっ!?」


「……」


「っ……なんて美人なの!?」



 聖女を見た勇者三人————全員が制服を着ていて、高校生くらいに見える————が三者三様に反応する。


 うん? 美人か? まぁ、フィリナと比べちゃ悪いか。



「これって、異世界転移ってやつか!?」


「はい。その認識で相違ないかと、勇者様」


「しかも勇者ってか! やったぜッ!!」



 一人の男が、叫んで喜びを顕にする。


 だが、俺は気付いていた。

 残りの二人の男女の口元も緩んで、嬉しそうな様子を隠し切れていないのを……



 (勇者召喚の儀で召喚される異世界人は、元の世界に心残りが無くて、異世界に憧れを持っているって伝承は本当だったんだな……)



「勇者達よ。私はシュッペルゼ王国の国王、ライール・シュッペルゼである。そして……」


「俺は第二……いや、王太子のリュザート・シュッペルゼだ」


「本物の王子様っ!?」


「あ、ああ?」



 女勇者がリュザート王子の方を見て、興奮したように声を大きくする。



「お主ら勇者達には、専属の王宮騎士団から選出した教官を付け、力を付けてもらう」


「はいはーい!! 王様!」


「……なんだ?」


「俺たちって勇者なんだろ? なんか特別な力とかあるっしょっ?」


「伝承によると、お主らは複数の特殊能力を備えているらしい」


「やっぱりな!!」


「だが、レベルアップしない内には流石のお主らも、まともには戦えないだろうから、よく鍛えるのだぞ」


「おーっ! しかもレベルシステムか! いいな、それ!!」



 一人の男が元気よく話す。



 (アイツ、国王に無礼すぎないか? まぁ、異世界から来たんだから、それも仕方ないか)



 ゼオンは内心そう思っていた。

 しかし、本人は気付いていないが、側から見るとゼオンも今まで、国王に割と失礼な態度を取ってきているが……



「ところで……結局、私たちって何すればいいの? 魔王とか倒せばいいの?」


「マオウ?とやらは分からんが、私がお主らに求めるのは、魔物を倒したり、国の防衛をしたりすることだ……勿論、それに見合う報酬は与える」


「へー! やっぱ、魔物が居るんだな! てことは、魔法はあるんだよな!?」


「……。……ああ、魔法は勿論、存在する」


「よっしゃあ!!」


「それと、お主らには名誉子爵位を授けるから、王侯貴族との婚姻も可能だ。一応、覚えておけ」


「じゃあよぉ……一つ聞いていいか?」


「ん? 何かね、勇者よ」



 ここで、今まで一度も話していなかった男が手を挙げる。



「王女って居たりしないのか?」


「ああ、娘なら四人居るが、三人はこの場には居ない。一人は……そこで寝ているはずだ」


「寝ている?」



 国王の視線の先……俺の腕に抱えられているフィリナの元に勇者達の視線が集まる。



「えっ! そっちの彼もイケメンじゃん! 誰なの??」


「ああ、彼は————」


「ん……」


「娘が、起きたようだ。フィリナ、勇者達に挨拶をしなさい」


「……はじめまして、勇者達。第四王女フィリナリア・シュッペルゼです」



 寝起きだからか、少し小さめの声でフィリナが挨拶をする。



「「「……!?」」」



 勇者は全員、驚きの表情で固まった。



「すげー、美少女じゃん!」


「か、かわいい! ヤダ、私、女なのに、惚れちゃいそう!」


「お前、それはヤバいだろ……」


「なにおう! 年下の癖に生意気ね!」


「はぁっ!? 俺は高一だぞ! お前は身長的に中学生だろ!?」


「同級生かい! てか、身長を馬鹿にするんじゃないわよ!!」



 男女の不毛な争いをその場の者達は静かに眺める。



「————おい、俺って勇者なんだろ?」



 王女について尋ねた男が、再び質問をする。



「ああ、そうだ」


「それならよぉ……第四王女を俺にくれよ。勇者は王族と結婚できるんだろ?」


「そうだが……フィリナには既に相手が居るから、無理だぞ?」


「そんな相手なんか勇者の俺と比べるまでもないだろ? 仮に結婚していたとしても関係ない。……兎に角、そこの王女は俺が貰うぜ」


『黙れ』



 部屋の空気が、凍り付く。


 横暴な態度の勇者に、ゼオンの魔力による《威圧》が発生したのだった……





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