第73話 Sランク冒険者に?


「今日は王都を歩かない?」


「いいよ。いつ行く?」


「いつでもいいわ」


「分かった。それなら、今行こうか」



 15分後。


 俺たちは、王都を散策していた。



「————で、どうする?」


「はぁ……なんで王城を出たらすぐに狙われるのかしら?」


「いや、今回、奴さんは俺に用があるみたいだよ?」



 王城を出てすぐに、複数人が俺たちを尾け始めたのだ。



「どうしよう?」


「取り敢えず、あちらに行きましょ」



 俺たちは大通りから外れ、やがて人気のない路地裏に辿り着いた。



 (慎重な奴らだな)



 その辺りを歩いていても、此方を監視する者達は接触して来ない。



「ゼオンくん」


「ん? あ……」


「ん……チュ……」



 俺が此方から出向こうか迷っていると、フィリナが俺の唇を奪った。



「『これなら、アイツらも出て来るんじゃない?』」


「『なるほどね』」



 俺たちは、至近距離で意思疎通を図った。



「『来たようだな』」


「『やっぱり、暗殺者だったわね』」


「『まぁ、いいさ。全員、殺すだけだ』」



 そして、複数の敵が屋根から飛び降りてきた。

 手には、黒色に塗られ、暗闇と同化した刃を携えている。


 襲撃者は、フィリナと向かい合う俺の背後目掛けてその刃を突き立てようとする。


 だが、その刃は全て空振りに終わり、襲撃者は皆、一瞬目を見開くと、辺りを用心深く見渡し始める。



「「「「「ぁ?」」」」」



 刹那、襲撃者の頭部が消滅し、全員がその場に崩れ落ちた。



「……何それ?」


「手に風魔法を纏わせたんだ」


「それは凄いわね……」



 俺はその手で襲撃者達の頭に軽く触れただけだ。


 以前、剣には風魔法を纏わせるようなことはしたが、今回は自身の身体に纏わせただけあって、難易度が遥かに増している。


 普通の人がこれをすると、一歩間違えれば自らの身体を傷つけることになるが、あれから更に魔力制御能力が向上した俺ならば、問題ない。



「……あれ? まだ誰かが見ている……?」


「うん。なんか今の様子を見ていたみたいだから、此方から行ってあげよう」


「分かったわ」



 (転移)



 俺は、遠くから俺たちを監視していた者の元へと転移を発動した。



「何も問題はなかったようだな……帰るか」


「どこに行くんだ?」


「ッ!?」



 路地裏から遠く離れた建物の屋上に居た男が、驚愕の表情を浮かべる。



「お前、アイツらに尾けられてる俺たちを見てたみたいだけど、何がしたかったんだ? 場合によっては今ここで……」


「ま、待ってくれっ! 誤解だ!」


「何が?」


「確かにアイツらは俺が差し向けたが、元々アンタを害する気はなかった!!」


「へぇ?」



 嘘看破に反応はない。嘘は言ってないようだな……



「じゃあ、何が目的なの?」


「分かった。言う。言うから、その物騒な物を仕舞ってくれ、王女様!」



 フィリナは、男の首元に剣を添えていた。



「早く言え」


「お、俺は冒険者ギルド本部所属のAランク冒険者、ヤーチェンだ!」


「知らんな」


「う……俺は、この国にアンタの調査をしにやって来た」


「何のために?」


「Sランク認定しに来たのさ! ほら、アンタの新しいギルドカードだ!」



 ヤーチェンは、俺に白い光沢を放つカードを投げ渡してきた。



「へー、これがSランクのギルドカードなのか……それは良いが、何故俺を襲わせたんだ?」


「ギルドマスターの命令だ」



 冒険者ギルド本部のギルドマスターといえば、大陸全ての冒険者ギルドを統括する、グランドマスターと呼ばれる唯一の存在だ。



「で?」


「あぁ、アンタが恐ろしい魔法を行使できるのは、多くの目撃情報から把握しているが、ギルドがSランク認定した存在が暗殺でもされたらギルドの面目は丸潰れだろ?」


「なるほど、自衛能力があるか確かめたわけね」


「そういうこった」


「……だが、俺を害する気はなかったんだろ? 俺が奇襲に弱かったらどうするつもりだったんだ?」


「俺はAランク冒険者だぜ? この役目が俺に回ってきたのは、俺がこの仕事に向いていると判断されたからだ」


「へー」



 これで俺は晴れてSランク冒険者ってわけか。



「そのギルドカードには、普通のモンとは違う機能が備わっている」


「ふぅん……」


「それは、自在に偽装ができる。AからFランクまで全てな」


「ほー、そりゃあ、便利だな」


「全くだ。羨ましいぜ」


「……?」



 嘘を吐いた……? まぁ、気にすることじゃないな。



「それと、正式にお前がSランクになったと発表されるのは、明日だ」


「へぇー、もうお前に用はないから、帰っていいぞ」


「酷いじゃねーか! 同業なんだから、仲良くしようぜ!」


「知らん」



 俺は騒ぐヤーチェンを無視して、転移を発動した。




   ♢



「……私も冒険者になろうかな?」


「うん? なんで?」


「そろそろ王都を出るでしょ? そしたら、私がすることが無くなるから……」


「うーん、別にならなくてもいいんじゃない? 俺はSランクになったし、報酬も沢山貰ったから、お金に困ることはないだろ?」



 そう、俺たちは勇者召喚の儀が終わったあと、出国するつもりでいる。



「それはそうだけど……ゼオンくんに頼りっきりになるのもなんか違うと思って」


「それなら、趣味程度に冒険者の仕事をすればどう……?」


「そうしようかしら」



 尤も、冒険者は命懸けの職業だ。

 それを趣味と言い切るゼオンも、普通の人からすると、中々に面の皮が厚いと言えた。







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