第72話


 その後、勇者召喚の儀は巨大魔法陣がある王城の地下の一室で行うとだけ説明され、解散となった。



 コンコンコンッ



「ゼオユーラン様、いらっしゃいますか?」


「ああ」


「国王陛下がお呼びです。先の一件の報酬の話で、玉座の間に来てほしいと」


「分かった。直ぐ行く」



 コツコツ……



 扉から足音が遠ざかっていく————



「お父様に何を要求するの?」



 フィリナが尋ねてくる。



「……一度部屋に戻った方がいいんじゃない? 今の人、多分フィリナの部屋に向かったよ?」


「大丈夫よ。どうせ玉座の間に呼ばれるだけでしょうし」



 その後、部屋を出た俺たちは一旦別れ、俺は玉座の間に行く前に待機する場所である応接間に案内され、そこでお菓子を食べながら、呼ばれるのを待っていた。



「準備が整いましたので、案内いたします」


「モグモグ……ああ、分かった」




   ♢



 目の前の巨大な扉が開くと、玉座の間の様子が視界に入ってくる。


 大広間を縦断するレッドカーペット。

 左右には、複数の貴族が整然と立ち並び、玉座の間に入ってきた俺に視線を向ける。


 あ、フィリナとクラードル伯爵が居る。


 そして、中央奥には、玉座に厳かに座る国王。


 反乱時に俺に頼り切っていた情けない姿は影も形も無い。



「ゼオユーラン、国王陛下の呼び出しにより参上しました」


「ああ、よく来た」



 跪く俺を玉座から見下ろす国王。



「今日は褒美を与えたくてな……先の反乱の鎮圧に多大な貢献をしたことへの正当な報酬だ」


「ありがたき幸せ」



 やったー! 一生遊んで暮らせ……はしないか……



「まず、王宮の宝物庫の物を一つ選んで持っていく権利をやる」


「「「「「おぉ……」」」」」



 宝物庫ね……自分で好きなのを選んでいいとかロマンあるね。



「そして、金銭に関してだが……白金貨30枚を贈呈しよう」


「「「「「ッ……!?」」」」」



 貴族たちは、一様に息を呑む。


 白金貨30枚は、上級貴族の全財産に届くほどのお金だ。

 下級貴族でさえ、それだけのお金を所持していることが知られれば、何らかの勢力に狙われることは必至だろう。



「最後になるが……私の娘、第四王女フィリナリアをお前に嫁がせよう」


「え、嫌です」



 ザワザワ、と玉座の間に不穏な空気が流れ————



「他人から貰うんじゃなく、フィリナはが欲しいんです」



 ……なかった。


 頬を染めて俺に熱い視線を向けるフィリナを見て、貴族たちが納得したような顔になる。



「そ、そうか。娘を気に入ってくれたようで何よりだ……謁見はこれで終了とする。宝物庫にはこの後案内するから、別室で待っていてくれ」


「分かりました。これで失礼します」


「うむ」



 俺は再び巨大な扉をくぐり、案内の侍女に付いて行くのだった。




   ♢



「ふむ……待たせたか?」


「そんなことないですよ」



 案内された王城の一室で待ち、数分後。


 扉の向こう側から、国王がフィリナと騎士団長を伴って現れた。



「それは良かった。……では、付いて来い」


「はっ!」



 フィリナが俺の隣に来る。

 俺たちは王城奥に向かって歩く国王に付いて行く。



「ゼオンくん、カッコよかったわぁ……」


「それは嬉しいけど、ちゃんと前見てね?」



 なんか最近、フィリナのチョロさが加速してる気がするけど、可愛いから全て良し。



「私だ。宝物庫を開く」


「「はっ!!」」



 宝物庫前では、王宮騎士の中でも上位に入るであろう実力者が番をしていた。


 その二人が扉から離れる。

 扉の中に入ると、二つ目の扉が目に入ってくる。



「ここだ。少し待て」



 そう言うと国王は、扉の鍵穴に魔力を流し始める。


 ……なるほど、鍵ではそもそも開くようには作られていないってことね。



「入っていいぞ」



 俺たちが中に入るとそこには、金銀……ではなく、様々な魔道具が散りばめられていた。



「適当に置かれているのは気にするな。そもそも、出入りを禁じている所だから、私しか片付ける者が居ないのだ……そして、私は全く掃除ができない」


「はは……」



 国王、堂々と言い切ったよ……少しだが、親近感が湧いた。



「だが、ここにある物はどれも一級品以上の価値がある……気に入った物を選べ」


「分かりました」



 俺は、魔道具の山に目を向ける————



「これは……?」


「ああ、確か、魔力を増幅させる魔道具だったと思うぞ」


 (やっぱりか……なんか知った雰囲気の魔道具だと思ったよ)



 俺が呟いたのは、首輪型魔道具についてだ。



「うーん……」


 (何だろ、これ)


「それは、斬撃、火、水の三つ全てに優れた耐性を持つコートだ」



 前にオークションで見た物より性能が良いみたいだな。



「えーと……」


「おぉ、懐かしいな。それは……」


「国王様、これはどんな物ですか?」


「ああ、それは————」


 (ヤバい。俺、国王を解説のおっちゃんみたいなポジションにしちゃってるよ……)



 暫く国王の解説を聞き、最終的に俺は一つ……いや、一組の魔道具を選んだ。



「本当にそれでいいのだな?」


「ええ、これがあれば、フィリナといつでも話せますし」



 俺が選んだのは、連絡用魔道具。


 ラズノートが帝国本国と連絡をとるのに使っていたのと同じ効果の物だ。


 ラズノートが使っていた物は亜空間に保管してあるが、連絡用魔道具は一組で一つの物。

 片方だけあっても、何の効力も発揮しないため、ただ漠然と、あったら便利だろうなぁ……と思っていた物が手に入り、実に満足である。





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