第71話


 チュンチュン


 ……なんて、鳥のさえずりは聞こえてこないが、まぁ、兎に角、起き上がった俺の隣では、一糸纏わぬ姿でフィリナリア姫————フィリナが寝ている。



「んむぅ……」



 俺が頭を撫でるとフィリナは、無防備に気の抜けた寝言を漏らす。



 (可愛いし……エロいな)



 フィリナが身じろぎすると、布の隙間から標準より少し上(私見)の大きさの膨らみが見え、寝る前の行為を思い出してしまい、下半身に熱が集まるのを感じる。



 (ちょっ、収まれ!)



 何とか視線を逸らして、部屋を見渡す。



「カナリーゼ……流石にアレは趣味が悪いと思うよ?」


「……何が?」



 カナリーゼが何もない空間から現れる。



「見てたでしょ?」


「……まぁな」



 見てた、というのは、俺とフィリナのベッドでのプロレス(意味深)のことだ。

 そう、カナリーゼは俺たちの行為をずっと隠密状態で見ていたのだ……

 まぁ、フィリナも気付いてはいたけど、気にしてないようだったし、別にいいんだけどさ。



「そんなことより、ゼオユーラン」


「ん? なに?」


「私をガルフさんの元に連れて行け」


「君、仮にも護衛でしょ……?」


「お前が居れば十分だろ? それに、フィリナ様自身も強いからな」


「まぁ、そうなんだけどさ……」



 評価が高いのは素直に嬉しいんだけど、こうも下心全開だとね……



「仕方ないな……いつ迎えに行けばいい?」


「夕食時だ」


「分かったよ。いってらっしゃい」



 俺は、カナリーゼに転移を発動する。

 行き先は、《夜明けの君主》のクランハウスだ。


 彼女は、本気でガルフさんに惚れたらしく、俺の都合がつく限りは、転移でラキートの街まで送ってあげることにした。因みに、これは二回目の送り出しだ。



「リーゼ、変わったわね」


「あ、おはよう」


「おはよう、ゼオンくん」



 とか考えていたら、フィリナが目を覚ましていた。



「身体は大丈夫?」


「うーん……まだ少し違和感があるけど、問題ないわ」


「それなら良かった」



 まぁ、仮に痛かったりしても、フィリナは自分で《光魔法》を使って回復できるだろう。




「ところで、カナリーゼって昔はどんな感じだったの?」


「……今も昔と変わらないわね」


「フィリナとだけ仲良くて、裏の仕事をやってることが?」


「まぁ、そうね」



 以前聞いたことによれば、カナリーゼは田舎のしがない男爵家の四女で、王都に来た時に偶然フィリナに出会い、能力の高さを買われ、表向きはフィリナの侍女で、裏では王女の立場で自由に動けないフィリナに代わって、色々と情報を集めたり、護衛をしたりしていたらしい。



「今日はどうする?」


「ずっと、ゼオンくんと一緒に居たいわ」


「それは勿論……でも、公務とかは?」


「そんなもの無————あ……」


「あるんだ」


「う……で、でも! 打ち合わせだけよ!」


「何の打ち合わせ?」


「……あれ? 言ってなかったっけ……一週間後、勇者召喚の儀式があるのよ」



 へっ!? そんな重大イベントが控えていたのか! 俺の前世の世界からの来訪者……



 (面白そうだな!!)



 どんな立場のどんな人生を送ってきた人が召喚されるのか、楽しみだ。


 色々と寄り道したけど、そもそも俺が冒険者になったのは、この世界の面白いモノを見て回りたいという感じの理由だし、勇者召喚とか凄く面白そうなイベント、見逃せるわけない。



「————そういえば、ゼオンくんの持ち物は? この部屋には貴方の物は殆ど無いようだけど?」



 俺たちが外行きの服に着替えている時、ふと気になったのか、フィリナが尋ねてくる。



「あ、俺は収納魔法が使えるんだよ」


「何それ?」


「えーと……物を出し入れできる別空間を作り出せる、という感じ」


「……ホント、何でもできるのね」



 フィリナが呆れたような表情となるが、フィリナの方が万能だと思うんだが……




   ♢



「き、来たか、フィリナ」


「おはようございます、リュザートお兄様」


「ああ、おはよう……」



 王城の一室、そこではリュザート王子が待機していた。

 心なしか、元気がないようだ……



「お父様とお母様は……そろそろ来るわね」


「ん?」



 リュザート王子が疑問の声を上げるが、フィリナは遠くに居る国王と王妃の存在を感知したからな。



 3分後。


 国王と第一王妃が部屋に到着した。



「お前達、よく来てくれた。今や、王都に残っている王族は我らだけ……よって、ここに居る者達と聖女殿で勇者召喚を執り行うことになる」



 国王が告げる。

 この世界での聖女は、必ずしも一人ではない。

 《光魔法》が超級に達していれば、教会に聖女に任命される。


 因みに、勇者召喚に聖女が同席するのは、慣わしだそうだ。



「王族一人当たり、二人まで同席する者を選出できる……よく考えておけ」



 ここに居る王族……つまり、国王自身、第一王妃、第一王子、第四王女だな。



「それと、分かっているとは思うが、儀式の際、スゥージーとフィリナは魔力を全快にしておけ」



 これは割と有名な話だったらしいが、フィリナが狙われやすい理由の一つ……勇者召喚の儀では、女性王族の魔力を多く必要とする。それは大体二人分の魔力であるが、フィリナは生まれつき魔力が多いことが知られてしまったらしく、暗殺者がよく訪れるようになってしまったのだ。


 他の女性王族は狙われることを恐れ、王都から遠く離れるようになったため、今、この場にはフィリナ以外の王女は居ない、というわけだ。





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