第70話 告白


「いいわよ」


「えっ……??」


「だから、ゼオンくんとの噂なら広まってもいいって言ってるの……」


「「……」」



 フィリナリア姫は、頬を少し赤らめながら言う。

 ……うん?



「そこを退きなさい」


「う……」


「フィリナリア・シュッペルゼとして命じます。退きなさい」


「わ、分かりました」



 うわぁ……王族としての権力まで使っちゃったよこの人……

 俺は現実逃避気味に、思考する。



「ね、ゼオンくん」



 フィリナリア姫はソファーに座ると、熱に浮かされたような、魅惑的な表情で隣の俺を見る。



「私、貴方には感謝してるのよ?」


「な、何にですか?」


「全部」



 即答だった。



「初めて貴方に会った時、不思議な感じがしたの。それで、気が付いた時には何とか貴方を引き留めようと護衛の話を持ち掛けていた」



 フィリナリア姫は、懐かしそうに語る。



「自由に街中を回ったり、世間話をしたり……リーゼとレイナ以外に気軽に話せるのはゼオンくんだけよ」



 それは単純に友達が少ないのでは……?

 あ、何でもないです。



「それに、まだ礼を言えてなかったわ……ゼオンくん、この国を救ってくれてありがとう」


「いえいえ、依頼でしたし、報酬は国王様から沢山貰うつもりなので……」



 そこでフィリナリア姫は、片手を俺の首の後ろに回し、もう片方の手を俺の頬に添え、互いの顔が向き合うように動かす。



「ねぇ、ゼオンくん。何で目を合わせてくれないの?」


「あ……」



 更に上気したフィリナリア姫の顔が目の前にくる。



「今思えば、あの不思議な感覚は一目惚れだったんだって気付いたの。そして、私の気持ちはその時よりも大きくなっている……」


「……」


「—————好きよ、ゼオンくん」



 唐突な、告白だった。



「え」



 直正面に来たフィリナリア姫の顔を見ることができない。

 目を逸らす俺の胸は早鐘を打っている。



「貴方は、どうなの……? 私、これでも結構、勇気を出して言ったのよ?」



 フィリナリア姫は、不安げな眼差しを向けてくる。

 ……そんな目で見られたら、嘘は言えない。



「————俺も、好きですよ、フィリナリア様」


「っ……!」


「男が、こんなに可愛い貴女に惹かれないわけがないですからね」


「ふぇっ!?」



 フィリナリア姫が素っ頓狂な声を上げる。



「あれ?」



 さっきまであんなに攻めていたのに、急にしおらしくなったな……可愛い。



「大丈夫ですか?」


「だだだ大丈夫よっ! そ、それより、これで私とゼオンくんが相思相愛なことが分かったわけじゃん!?」


「え、ええ……?」


「そ、それなら! そのぉ……」



 フィリナリア姫は、俺の顔にチラチラと視線を向け、外し、を繰り返す。


 ……うん、なるほど。そういうことね。


 俺は、フィリナリア姫の望みを叶えた————



「ぁ、ん……」「……」



 小さく、声が漏れる。



「あ……」



 少しして、二人の重なった口元が離れると、フィリナリア姫は名残惜しそうな顔をする。



「もっかい……」



 心許ない、甘えるような声に従い、俺は再びフィリナリア姫にキスをした。



「ん、チュ……」「……!?」



 二回目のキス————俺の口内に、フィリナリア姫の舌が侵入した。



「んぅ……」「ぁ……」



 暫くして、二人の唇が離れると、互いに見つめ合う。

 熱い吐息が漏れ、頬を撫でる。



「ゼオンくん……」



 トロンとした目付きのフィリナリア姫は、視線で俺を部屋の大きなベッドに誘う。


 俺はフィリナリア姫を文字通り?お姫様抱っこして、ベッドへと運んだ。


 そして—————



「ちょっ! やめて下さい! 私がリュザート様に殺されちゃいますからぁっ!」


「「あ……」」



 突然、近くから懇願する声が聞こえてきた。

 そういえば、居たな。この女……完全に忘れてた。



「へぇ……貴方やっぱり、リュザートお兄様の指示で来てたのね?」


「あっ!」


「今なら見逃してあげるから、帰りなさい」


「か、帰りません! ふ、フィリナリア様は王女なんですよ! そこの平民の方と結ばれるのは赦されませんよ!!」



 そうだ。俺は平民だが、フィリナリア姫は王女。本来、結ばれることはない……だが、俺はどんな汚名を被っても、フィリナリア姫を愛することにした。

 幸い、この国の人間をどれだけ集めても、俺には敵わないだろうし……



「あら? 何を言ってるの? お父様もお母様も私がゼオンくんと結ばれることに反対しないと思うわよ? まぁ、仮に反対されても、無視するけど」


「「えっ!?」」



 うん……どゆこと?



「ゼオンくんは知らないって顔してるけど、貴方は今、Sランク冒険者への昇格が確実だと言われてるのよ?」


「Sランク冒険者!?」



 リュザート王子の部下の女は、驚きの声を上げる。



 Sランク冒険者————。


 大陸中、数ある冒険者達の中でも、人外判定された者のみが与えられるランク。


 彼らは単体で、一国を滅ぼせると言われている。


 そして、冒険者ギルド本部が公開している情報によれば、現存するのはたったの二人だ。



「……えっと? それがどうかしたんですか?」


「Sランク冒険者は、一人で国を滅ぼせるのよ? そんな存在に権力なんか意味を成さないのよ。だから、権力者達はむしろ何とかしてSランク冒険者と縁を繋ごうとするのよ」


「なるほど、つまり……」


「そ、私と貴方に身分差なんてあってないようなモノなのよ」


「はぁ……なんか色々心配して損した気分です。……でも、なんで俺がSランク認定されると思われてるんですか?」


「ゼオンくんにとっては大したことなかったのかもしれないけど、貴方が放った魔法は地形を変えるまで至っていた。これは超級スキルすらも超越しているわ……つまり、貴方は歴史上、三人目の極致級スキル保持者なのよ」


「なるほど……」



 まぁ、あれもそんなに魔力を注いでなかったから、まだまだ威力は伸びるんだけどね。



「これで分かったでしょ? そこの貴女」


「はい……?」


「よし、それなら、出て行きなさい……あ、お兄様には、覚悟しなさいと私が言っていたと伝えておいてね」


「え?」


「さようなら」


「き、きゃああああああぁぁぁぁ………………」



 部屋の扉が独りでに開くとそこまでフワっと浮いて移動させられ、そのまま廊下の奥まで吹き飛ばされていった夜這い女。

 ……《風魔法》スキルは上級ってところかな?



「さて……」


「え……??」


「続き、しましょ?」



 フィリナリア姫は、俺をベッドに押し倒すと、色っぽく微笑んだ。



「あ、あのー、フィリナリア様……?」


「フィリナって呼んで……私と貴方の仲でしょ?」


「ふ、フィリナ、避妊は……?」


「教会で避妊魔法を掛けてきたし、何ならその時に見て使えるようになったわよ?」


「あ、さいですか」



 ここに来る前から準備万端だったんかい!



 部屋の中が寝静まったのは、日を跨いで暫くした頃だった……




—————


 あとがき


 正直な話、フィリナリア姫をヒロインにする予定はなかった。

 でも、勢いでやりました。後悔はしてない……


 あと、第二王子の命令で彼女が来たという内容も加えました。




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