第69話 戦後


「貴女の負けですよ。ドルキア王妃」


「黙れ、クソガキがッ! 私に逆らって良いと思っているのか!」


「勿論、国王様には、許可を貰っています」


「なっ……!?」


「王家に反逆した者は例外なく、殺して良いと」


「私は王妃だぞ!?」


「ええ。ですから、一応、殺しはしませんよ。一生、牢屋にでも入っていて下さい」


「ふざけ————」


「……もう、黙りなさい。貴女の負けよ」



 瞬間、ドルキア王妃とついでにジェラルドは、口が凍り付いたように動かせなくなり、両腕、両脚は氷で覆われ、自由が効かなくなる。



「それと、勿論、貴方達も拘束させてもらうわよ?」


「はい、大変申し訳ございませんでした……」


「私に謝っても、意味はないわよ」



 ドルキア王妃の言いなりになっていたシクール侯爵と、その騎士達は拘束を受け入れた。

 その後、俺たちはシクール侯爵の率いる軍に武装を解かせるのだった。




   ♢



「いやぁ〜、よくやってくれたな、ゼオユーラン殿!」


「どうも」



 軽い戦後処理が終わり、王城内の一室に居る俺は、国王からお褒めの言葉を受け取っていた。


 正直、そんな言葉よりも報酬が欲しいのだが俺は。



「聞けば、ゼオユーラン殿は現在、護衛用の宿舎に泊まっているとか」


「そうですね」


「そこだと不便があるかもしれないから、王城に部屋を用意した。そこを使ってくれ」


「……分かりました。ありがとうございます」



 別に不便は無いんだが、用意したというのなら、使うしかないか……



「おい」


「はっ!!」


「ゼオユーラン殿を部屋に案内するんだ」


「承知しました! では、ゼオユーラン殿、どうぞ此方へ」



 俺は侍女に部屋へと案内される。



「何かご不明な点がございましたら、近くで待機しておりますので、声をお掛け下さい」


「ああ」


「では、失礼いたします」



 そう言って、侍女は俺に宛てがわれた部屋から出ていった。



 (はぁ……)



 この部屋は5階の一室で、以前見たフィリナリア姫の部屋ほどではないとはいえ、豪華な調度品で飾られており、少し落ち着かない。



 (あのオバさんは……あっ、居た居た)



 俺がドルキア王妃の気配を探ると、地下に反応があった。



「ぷっ……!」


 (あのオバさん、国王が捕まっていた牢屋に入ってる……!)



 偶然だろうが、フィリナリア姫が国王に引き渡したドルキア王妃は、国王が捕らえられていたのと全く同じ地下牢に入っていた。


 あの後、帝国とつながっていたシクール侯爵やその騎士、ガドルカットス侯爵家の騎士達は全員捕らえられた。彼らの処遇は追って知らせるとか何とか言っていた。


 一方、その他の反乱軍の六万の兵士達……生き残ったのは、約二万九千人。犯罪奴隷とするには流石に数が多すぎて、管理も難しい。それに、これだけの人を殺すと、国内の産業に大きな影響を与えてしまう。


 そのため、逃げ出した兵士達を無視したうえ、降伏した兵士で捕らえておいた者達は既に解放したらしい。


 だが、シクール侯爵家やガドルカットス侯爵家に加担した、寄子や第一王子派の貴族達は全員、何かしらの処罰は免れないらしい。


 ……ん? 第一王子?

 一応、血の繋がった子供なだけあって、国王はアイツを殺したり、牢屋に閉じ込めたりする気はないらしく、王位継承権を剥奪したうえ、一生、遊んで生きて行けるだけの金を与えて放逐したらしい。


 うーん……大丈夫か、それ? ……まぁ、俺には関係のない話か。


 コンコンッ



 その後、侍女が部屋に夕食を運んできたのでそれを平らげ、暫く経ったところで部屋にノック音が響いた。


 気は進まないが……



「入っていいよ」


「失礼します」


「……」


「ゼオユーラン様、夜伽に参りました」



 扉から現れたのは、扇情的な服に身を包んだ、豊満な肉体を持つ美女だった。



「……お帰りいただきたい」


「心配しないで下さい。女性経験がなくとも、私が全て、教えて差し上げます」



 茶髪の美女は、ソファーに座っている俺の元にやってきて、服をはだけて露わになった胸元を押し付けてくる。



「誰の指示で?」


「私は貴方に一目惚れをし————」


「嘘だね」



 ————《嘘看破》の光魔法を使った俺。



「……ここで帰ったら、私が怒られちゃいます。だから、私を助けると思って……どうです?」



 ブラフではなく、本気で言っているのが分かったのか、その女性は正直に言うと、妖艶な表情でしなだれかかってくる。

 ……精通を済ませたこの多感な身体では、その誘惑に抗えない。


 そのまま—————



「待ちなさいよっ!」


「「へっ……?」」



 声がした部屋の入り口に目を向けるとそこでは、ネグリジェ姿のフィリナリア姫が息を切らしながら扉に片手を掛け、俺の方をもの言いたげな目で見ていた。




   ♢



「ふ、フィリナリア様!?」



 き、気付かなかった……。いつもは睡眠時でも周辺一帯を感知しているのに……!



「これはどういうこと?」


「え、えーと、その……」


「私に内緒で何をしようとしていたのかしら?」


「そ、それは……」



 必死に言い訳を考える俺。


 ……いや、待てよ? なんで俺が責められてんの!? でも、なんか気まずい……



「……フィリナリア様、此方は男性のお部屋ですから、ご自身の部屋にお戻り下さい。……貴女は未婚の王族。変な噂が立つのは避けるべきです」



 そんなことを考えていると、こんな事態を引き起こした張本人の夜這い女がフィリナリア姫を説得しに掛かる。


 そうだそうだ、言ってやれ! 全部お前のせいな気が……いや、絶対お前のせいだけど、頑張れ!





 

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