第68話


「全く見えなかったぞ……ゼオン、どれだけ強くなったんだ?」


「今ある問題を片付けたら話すよ。……ところで、此方の方は?」


「ああ、彼はストーレック伯爵だ」


「助けてくれて有難う。えーと、カラードの息子さんかな?」


「ええ、そうですよ」



 カラードが守っていたのは、予想通りカラードが騎士として仕えるストーレック伯爵家の当主だった。



「君のことはカラードからよく聞いているよ。11歳にしてAランク冒険者になったとか?」



 家族には定期的に手紙を送っていて、Aランク冒険者になったことは報告済みだ。



「ええ」


「そんな君を見込んで頼みたい。この戦いに手を貸してくれないか? 圧倒的に不利な状況だ。途中で逃げても構わない。報酬ならば、ギルドの俺の口座番号を教えるから……」


「いえ、報酬なら既に国王様から沢山受け取ることになっているので要りませんよ?」


「「国王様!?」」


「ですから、俺が今からすることに文句は言わないで下さいよ?」


「それはどういう————ッ!?」


『全員、動くな』



 俺は最大魔力の5パーセントを解放し、戦場全体に向け、《威圧》した。



「「「「「……」」」」」



 怒声が飛び交い、喧騒に包まれていた戦場に静寂が訪れる。


 その場に居る兵士達は5割が失禁、4割が気絶した。


 俺が《威圧》の対象外にしたのは、フィリナリア姫、カラード、ストーレック伯爵。それと————



「何が起こっている! 兵士が動かなくなったじゃない!!」


「姉さん、落ち着いて」


「落ち着いてられるか!! ……ん? 第四王女ぉ……これはお前の仕業か!?」


「いえ、ゼオユーラン様の力ですよ」


「あ————そっちのお前は、私を騙したガキだな!!」



 俺とフィリナリア姫が転移したのは、第二王妃ドルキアの近く。

 彼女の魔力を感じ取った俺は、その周辺を《威圧》範囲外にした。

 最近知ったことだが、彼女の生家はシクール侯爵家らしく、今回の反乱に関係していると思っていたが、予想通りだったな。



「そもそも何故、王宮から援軍が来ないんだ! 帝国のゴミどもが!!」


「ちょ、姉さん、それは言っちゃダメでしょ!」


「五月蝿い、黙っていろ!」


「やはり、貴女が王宮に帝国の者を招き入れたのですね」


「はっ! 今頃気付いたのか!」



 ドルキア王妃は、心底馬鹿にしたように叫ぶ。



「これは立派な反逆罪ですよ」


「何を言っている! 私の息子こそがこの国の王に相応しいッ!! あの賤しい女の子供である第二王子を国王にしようとしたあの男が悪いに決まってるじゃない!」



 あの男、とは現王のことか……次期国王をリュザート王子に決めたのを何らかの形で知った、というところか。



「そこんとこどう思ってるんです? ジェラルド様?」



 俺は、ドルキア王妃の後ろで多くの騎士の囲まれているジェラルドに話しかける。



「……俺こそ王に相応しい」


「何故ですか?」


「リュザートには賤しい血が流れているからだ!」


「ママと同じことしか言えないんでちゅか? 少しは自分の意見というものを持った方が良いでちゅよ?」


「黙れ黙れ黙れッ! 平民の分際でッ!!」



 ジェラルドは俺の方へと向かおうとして、騎士達に諌められている。



「ゼオンくん……その口調、凄いわ。何か、こう、新しい扉が……」


「えっ!? ダメですよ、フィリナリア様! そっちに行っては!!」


「冗談よ」


「初めて貴女の冗談を聞いた気がします」


「あら、そう?」


「クソがッ! アイツら、俺を舐めやがってッ!!」



 ジェラルドが何やら暴れているが、無視だ無視。



「そうね。次期国王である息子を馬鹿にした小娘達には死あるのみよ……さぁ! 騎士達よ! やってしまいなさい!」


「「「「「……」」」」」


「……姉さんの言う通りにするんだ」


「「「「「はっ!!!」」」」」



 ドルキア王妃の隣に居る男————フィリナリア姫によると、シクール侯爵である彼が命令を下すと、騎士達は此方に向かって前進する。



「私がやるわ」



 それに対し、フィリナリア姫が一歩踏み出すと、前に出てきた騎士達は、全員足が凍り付き、身動きが取れなくなった。



「なっ……! コイツらはお前と同じCランク相当の強さを持っているんだぞ! まさか、力を隠していたのか!!」


「当たり前じゃない。貴女に教えてあげることなど、何一つないわ」


「キーッ!! おい、騎士団長、お前————は?」


「すみません、ドルキア王妃。俺では、彼らには勝てません」



 騎士団長、と呼ばれた男は、自らの武器を放り投げていた。



「な、に……? お前は騎士団長だろう!! 何とかしろ!」


「無理です」


「ふざけるな!!」



 ドルキア王妃は、足が凍り付いた騎士が携帯する剣を奪い取り、男に投擲するも、難なく躱される。


 彼は、兵士達が倒れたのは、《威圧》によるものだと見抜いていて、これだけ広範囲に高威力を発揮する《威圧》を放つには、途方もない程の魔力が必要であると知っていた。


 そして現れたAランク冒険者だというゼオユーランという若い男。

 《魔力感知》に自信のある自分でも、全く感じ取れない魔力の様子。

 そのことから、先程の《威圧》はゼオンが放ったモノだと結論づけたのだ。


 尤も、フィリナリア姫の実力が自分より上であることも、自分の部下達が凍らされた時から分かっていた彼にはどちらにせよ、戦うという選択肢は無かったのだが。





 


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