第67話
「はっ、俺も舐められたもんだな! 金を貰っている以上、雇い主は守り切るぜ!!」
「私を倒さないと、ゼオユーラン様の元には行けませんよ」
フィリナリア姫は堂々とした立ち振る舞いで、剣を構える。
「では、お願いします。俺は侯爵を————殺します」
俺は背後の戦闘音を聞きながら、侯爵の方へと進む。
「おっと待ちな。侯爵様には手出しさせないぜ、化け物よぉ?」
だが、進行先に騎士服を纏った一人の男が立ち塞がる。
「貴方は?」
「俺はガドルカットス侯爵家騎士団の団長をやっている、ラベンニューというもんでぇ」
「そうか、ラベンニュー。残念だ。侯爵を庇う者も全員、殺す」
「おっかないねぇ……っと!! あらら、避けられちゃったか」
ラベンニューは、不意打ちに剣を振るってきたが、俺は後ろに下がって避けた。
「卑怯なヤツだな」
「ここは戦場だぜ? とは言っても、お前さんのせいで、随分と人が減っちまったがな……兎に角、勝てばいいんだよ、勝てば!」
「確かにな」
だが、コイツ、騎士らしくない考えをしているな……まぁ、人それぞれか。
「ふっ!!」「……!」
ラベンニューと俺の剣がぶつかり合う。
剣戟が起き、周囲には何度も鋭い金属音が鳴り響く。
「ハァ、ハァ、ハァ……お前、その歳で剣も化け物級かよ……」
「そうか? 良い勝負だったぞ?」
長時間、斬り結び、後半の方で少しずつ剣を振る速度を上げていくと、ラベンニューの体力は殆ど尽きたようだ。
それでも恐らく、《剣術》スキルは俺と同じ上級に至っていただろうし、レベルも他の人と比べて相当高そうだった。
だが、膨大な魔力により、強靭な身体を持つ俺には敵わない。
「じゃあな」
ザシュッ!!
ラベンニューの胸は横一文字に切り裂かれ、鮮血が噴き出るのだった……
♢
「何故だ何故だ何故だッ!!」
「大丈夫か? 遂に頭がオカシクなったのか?」
俺は、ラベンニューの背後に居たガドルカットス侯爵の前に立った。
「何故! 俺の固有スキルが効かないッ!」
「やはり、固有スキルを持っていたか」
「そうだ! 私は侯爵家という恵まれた家柄で、しかも強力な固有スキルを持って生まれた!! 生まれからして負け犬の平民どもとは違うんだよ!!」
「へぇ〜、どんなスキル?」
「《強制睡眠》だッ!! このスキルは、毒耐性を備える《状態異常耐性》のスキルに影響されない! 睡眠は正常な身体反応だからな! だが、何故、貴様に効かないのだ、化け物め!!」
「ふ、ふーん」
自分から、知りたかったことを話してくれた。
(あれ? 俺、結構危なかったんじゃね? なんで俺には効かないんだ……?)
俺は密かに、冷や汗をかいた。
(まぁ、効かないのならそれでいいか)
俺は、考えるのをやめた。
「……それじゃ、ほぼ平民の俺に殺されるお前は雑魚だな。さようなら」
「待っ————」
ザシュッ!
侯爵の首が、宙に舞った。
そして、生き残った侯爵軍の兵士達は、その光景を目にし、一目散に逃げ始めるのだった。
「……うん、あっちも終わったようだな」
俺はフィリナリア姫の元へと転移した。
♢
「はぁ、はぁ……」
「お疲れ様です。Aランク冒険者に勝つとは流石ですね」
「……ゼオンくんには勝てないけどね」
「あはは」
転移すると、光魔法で自らの浅い傷を回復させるフィリナリア姫が居た。
また、その足元の凍り付いた地面には、倒れ伏すオルムの姿があった。そしてその胴体には、剣による深い傷ができていた。
「いやー、剣に氷魔法を纏わせて、相手の剣伝いに少しずつ凍らせていくとは、面白かったです」
「まさか、戦いながら、此方の様子を探知していたの?」
「まぁ、そうですね」
「相変わらず規格外ね」
「ありがとうございます」
「はぁ……私、変わり者なのかな……?」
「? 何故ですか?」
「何でもないわ。……それより、東門が気になるわ」
「ええ、行きましょうか」
俺は、再び転移を発動した。
♢
東門前。
そこでは、三万のシクール侯爵軍に正面に加え、左右から挟撃され、殆ど一方的に倒されるセグルムート侯爵、ストーレック伯爵軍がいた。
(この魔力……どこかで……?)
転移すると、見知った魔力が感じ取れたが、どうにも思い出せない。
その魔力の持ち主は、そこそこの実力者ので、誰かを数人の敵から守っているようだ。
(行ってみるか……)
「フィリナリア様、少し気になる事ができたので、待っていて下さい」
「あら、それなら、私は敵の数を減らしておくわ」
「分かりました」
転移をした俺の目に飛び込んできた光景は、俺を驚かせるには十分だった。
(なっ……! 父さん!?)
両軍が入り交じる戦場。
貴人を守る赤色の髪の男————カラードの姿があった。
「ストーレック伯爵の首をとれ!!」
「「「「「おおうッ!!」」」」」
騎士服を着た者達が、貴人に襲い掛かっていて、カラードはそれを必死に防いでいるが、身体には決して浅くはない傷が幾つもできていた。
「させるかッ!!」
カラードは剣を振るうが、敵の数が多く、一人後ろに通してしまった。貴人に剣が振り落とされる————
「しまっ————ッ……ゼオン!?」
「久しぶり、父さん。元気? あ、元気なわけないか」
その剣は俺の手に掴まれ、持ち主は身動きが取れなくなる。
久しぶりに会った父に話す言葉が思い付かず、コミュ障みたいな話し方になったが、ご愛嬌。
「ゼオン、おまっ、どうしてここに!?」
「ちょっと縁があってね……コイツらはシクール侯爵家の騎士だよね?」
俺は父を攻撃していた者達を見渡す。
「あ、ああ……そうだが……ッ!?」
カラードの周りに居た騎士とゼオンに剣を掴まれた騎士、全員の首が飛んだ。
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