第64話


「出来ますよ」


「そうか……いや、やはり、全員殺してくれ」


「はっ、国王陛下の命、しかと受け取りました!」


「う、うむ」



 ノリで、何となくやってみたかった返答をしたら、国王に変なモノを見るような目で見られた。



「では、行って参ります」



 俺は王宮に転移して、ラズノートの魔力を追った。




   ♢



「————ああ、計画は順調だ。国王と第一王妃を捕らえることに成功した。第二王子には逃げられたが、最早ヤツには何も出来んだろう」



 ラズノートは王城の一室で、貴重な連絡用魔道具を使い、本国に居る者に経過報告を行っていた。



「あ? 騎士団長? ヤツなら捕らえた。……一応殺しておけと? 分かったぜ。確かに、万一、アイツに暴れられると危険だからな」


「————随分と大きな独り言だな?」


「ッ……!?」



 ラズノートは、その場から距離を取る。



「……貴様は、確か第四王女の護衛だったな」


「あぁ、そうだ。チラチラと俺の方を見てきて鬱陶しかったよ、お前」


「気付いていたか……やはり貴様は危険なヤツのようだな。俺の勘は間違っていなかった」


「そうか」



 俺は瞬きをする。


 刹那、



 バチッ!!



 ラズノートの持つ剣が、近くに迫っていた。



「お?」



 俺はしゃがんでそれを回避すると、ラズノートが俺の背後で止まったのが分かった。



「貴様……化け物か!? 今の俺の速さは音速を超えていたはずだっ!! それを避けるとは……!」



 思ったよりも速くてビビったよ。


 ラズノートは電気を纏っていたように見えた。

 固有スキルか……



「電撃魔法ってとこか?」


「何故それをッ!?」


「当たりか」



 風魔法と水魔法を組み合わせて作り出した電気では外部に作用させることしか出来ない。

 身体に纏うという動作から推測したが、当たったようだな。



「それもお前、自分の速さについていけてないだろ?」


「なっ……!」



 コイツは、俺に向けて剣を振るうわけでもなく、剣を横に傾けて俺の横を通過して行った。



「分かりやすいな、お前。じゃあ、終わりにしようか」


「クッ、舐めるな!!」



 バチッ!! バチッ!! バチバチバチッ!!



 俺の周りに幾つも剣閃が走る。


 俺はそれらをヒラリと避けると、一閃。



「あ……?」



 ラズノートの首は、胴体と永遠に別れることとなった。



 (一国の序列2位なだけあって、速さに頼りすぎず、直線的な攻撃を予測しづらい動きで補っていたな……まぁ、俺には見えていたが)



 その後、俺は一時間ほどで、王宮内の帝国兵と思われる者を全員、始末した。




   ♢



「王宮に居た賊は殆ど帝国兵でしたが、帰討完了いたしました」


「「「「「えっ!?」」」」」



 俺が客間で報告すると、その場に居た国王、スゥージー王妃、リュザート王子と侍女、騎士団長が驚きの声を上げる。



「ほ、本当なのか?」


「ええ、まぁ、ただの暗殺者などは今も王宮に侵入を続けているでしょうが……」


「あの化け物を殺したと言うのか……!」



 リュザート王子が、心底驚いたような顔をする。



「分かった……コーロワ、確認を頼む」



 リュザート王子の呼び掛けに、コーロワがその場から離れて王宮へと向かった。



「あとは、一時間ほどで王都に着く反乱軍への対処、か……」


「それならば、王都に滞在していた、セグルムート侯爵家やクラードル、ストーレック、両伯爵家の騎士と、王都の衛兵が北と東の城壁とその前方に待機しております。また、捕らえられていた王宮騎士も少しずつ移動しております」



 騎士団長が告げる。



 (クラードル伯爵家……まずはそちらの反乱軍を止めるか)



「ですが、反乱軍は侯爵家傘下の貴族達を大勢引き連れて来ています。反乱軍は六万いるのに対し、此方は四千。数の上では我らが圧倒的に劣っています」


「ううむ、どうしたものか……」



 この場の数人が、俺の方へと視線を向けてくる。



「……クラードル伯爵家が居る方角を抑えてから、時間があればもう片方の方角の反乱軍を防ぎましょうか?」


「おおっ! やってくれるか!」


「代わりに、この戦いが終わったら……」


「「「「「終わったら……??」」」」」


「報酬を沢山貰いますよ。それも、国家予算並みの」


「「「「「……」」」」」


「……ゼオユーラン殿、貴族位は要らないか? この戦が終われば少なくない貴族が粛清され、空きが出るからな」


「いやだなぁ……俺は冒険者なんですよ? 国に縛られるのはゴメンですよ」


「う……」



 やっぱり、そのつもりだったか……



「兎に角、報酬は弾んで下さいよ?」


「分かった……」



 その後、依頼の内容を吟味し、結果的には、元々、フィリナリア姫のためにやるつもりだったことをすると、沢山お金を貰えることになった。やったぜ。



「————では、クラードル伯爵家の待機する北に行ってきます」


「待ってゼオンくん! 私も連れて行って」


「分かりました。では、行きましょうか」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」


「……何です? リュザート様」



 フィリナリア姫と転移しようとした所で、リュザート王子に引き止められる。



「フィリナはここに居なさい」


「お兄様、何故です?」


「戦場に行くなんてどんな危険があるか分からないじゃないか」


「はぁ……まだ分からないのですか?」


「……何をだい?」



 リュザート王子は悟ったような顔になったが、フィリナリア姫に問いかける。



「ゼオンくんの側が一番安全にきまってるでしょ」



 フィリナリア姫はさも当然といった様子で、答えるのだった。






 

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