第63話 救出


「リュザート殿下」


「入っていいよ、コーロワ」


「それが、その……フィリナリア様をお連れしました」


「……入れていいよ」


「はっ」



 俺たちは女に続いて、部屋の中に入る。



「フィリナ……」


「久しぶりですね、お兄様」


「……フィリナは、ラキートの街に行っていたんじゃなかったの?」


「王都で起こった異変を知り、戻って来ました」


「フィリナが居ても、俺の助けにはならないよ」


「何故ですか? 私は強いですよ? 恐らく、お兄様の護衛の方よりも」


「それでも、フィリナには戦ってほしくないんだよ」



 あぁ……リュザート様はフィリナリア姫に死んでほしくないんだな。



「それに、敵には化け物が居る」


「それはシクール、ガドルカットスの軍の中に、という意味ですか?」


「違う。お父様を捕まえたヤツだ」


「……誰なんですか?」


「帝国序列2位のラズノートだ。ヤツは俺たちを見つけると直ぐに攻撃してきたが、その時に居た俺の護衛の中で一番腕の立つ男が時間稼ぎしか出来ないと言ったんだ……」



 ん? ラズノート? アイツは確かにガルフさんより少し強そうだったが……今の俺なら余裕で勝てるだろう。



「帝国は、この国を乗っ取るつもりなんでしょうか?」


「いや、それはないと思うよ」


「何故ですか?」


「突然、シュッペルゼ王国のトップが帝国の者になると、民の反発も大きいだろうし、この国の貴族たちの扱いも難しくなってくる。それに、この国と帝国は国境で接していない。仮にこの国が帝国の領土になったら、国土を帝国の領土に挟まれることになる隣国、イレイール王国が他の国と同盟を組んで帝国に対抗する可能性があるからね」


「なるほど。ということは、帝国はシュッペルゼ王国を属国にしたうえで、トップを操りやすいジェラルドにしようと思ってるんでしょうね」


「ああ、多分ね」


「これからどうしますか?」


「お父様もお母様も捕まっている。まずは二人を助けたいのだが……どうやら、地下牢に騎士達と一緒に閉じ込められているらしくてね。そこに配置されている者も手練ればかりだし、救出は難しいというのが現状だね」


「そうですか……」


「————それなら、俺が国王様をお連れしますよ」


「……君は確か、ゼオユーランくんだったね?」


「ゼオンくん、出来るの?」


「ラズノートが居ても恐らく勝てますし、何なら誰にも気付かれずに助け出せますよ」


「……本当なのか?」


「お兄様、ゼオンくんが出来ると言ったら出来るんですよ」


「ははっ、そうだな。フィリナがそこまで言うんだ。きっと大丈夫なのだろうな……頼めるか、ゼオユーラン殿?」


「ええ、勿論です……今から行ってきますね」


「「えっ?」」



 リュザート王子とコーロワが疑問の声を上げるが、その時には既にゼオンの姿は消えていた。




   ♢



 王宮図書館の王族専用スペースに転移した俺は、王宮の敷地全体を魔力探知していた。



 (あった。あそこだな)



 目的の魔力は直ぐに見つかった。


 地下牢と思われる場所には、複数の覚えのある気配が集まっていた。


 国王にスゥージー王妃、それと偶にフィリナリア姫が見に行っていた訓練場に居た騎士達だ。



 (転移)



 《時空間魔法》を用いた転移は、普通の魔法スキルよりも魔力消費が格段に激しいが、今の魔力チートな俺には、連続使用も苦ではない。



「……っ!!」



 俺が国王の前に転移すると、国王が声にならない声を上げた。



「(シー、静かにして下さいね。俺はリュザート様に頼まれて来た者です)」



 俺が小声で伝えると、国王は無言で頷く。



「(今から、国王様と、この牢屋付近に閉じ込められているスゥージー様と騎士を王都中層の家に居るリュザート様の元に移動させますが、よろしいですか?)」


「……」



 国王はほんの一瞬、怪訝な顔となったが、直ぐに頷いた。



 (……転移)



 ゼオンが選んだ転移先は、王都中層の一軒家の廊下や、客間だ。



 (うおっ!)


 (何だ!?)


 (ここはどこだ? 一体どうなっている!?)



 猿轡を噛まされた騎士達は、廊下で唸る。



「あ……お父様、お母様!?」


「「……」」



 また、リュザート王子とフィリナリア姫の居る客間に急に現れた国王とスゥージー王妃に、リュザート王子が驚く声が廊下に聞こえてくるのだった。




   ♢



「私たちを助けてくれて有難う、ゼオユーラン殿」


「いえいえ、この国の民として当然のことをしただけですよ」


「そう言ってくれると助かる」



 俺は心にもないことを言い、客間で国王から礼を受け取っていた。

 俺に見上げた愛国心などはない。何なら、そろそろ他の国に冒険しに行こうと思っていたぐらいだ。



「————不躾な頼みで悪いが、騎士達と共に王宮を取り戻すのを手伝ってくれんか?」


「いいですよ。ですが、彼らの世話は面倒なので、俺一人でやらせていただきますよ」


「ほう。世話、か……」



 同席している騎士団長が、自嘲気味に声を漏らす。

 割と厚顔無恥な頼みを聞いているんだから、これくらいの嫌味は言わせてほしいね。

 それと、騎士団長は国王の身柄を抑えられていたんだからから仕方ない。俺が見たところ、騎士団長はラズノートと変わらない強さを持っているしな。



「それで、賊はどうしたらいいですか? どうやら全員、帝国の者のようですが……」


「今更、帝国に気を遣う必要はないだろう……全て、殺して構わん。それとも、ゼオユーラン殿は奴等を捕らえることも出来るのか?」







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る