第62話
「それで、リーゼ。貴女がここに来たということは、王都で何かあったのね?」
フィリナリア姫が、カナリーゼに尋ねる。
「はい」
「分かりました。場所を変えましょうか……そちらの方は……」
「ガルフさんは信用できますよ」
「……では、付いて来てくれますか?」
「はっ。勿論でございます、王女様」
俺たちは侯爵邸の一室に移動した。
「何か御用があれば、お呼び下さい」
侯爵邸の使用人が、部屋から出て行く。
「じゃあ、何があったか教えて、リーゼ」
「はい。三日前————」
カナリーゼは、王宮で起きたことを話し始めた。
「そう。お父様が……」
「その後、私がウルグートに襲われたのをガルフさんに助けてもらった、というわけです」
「王都に戻る必要があるわね。私が走って移動して、二日くらいかしらね……ゼオンくんが私のことを抱えて移動したら、どれくらいかかる?」
(俺が本気で走ったら、風圧で抱えてる人はバラバラになると思う……そもそも————)
「0秒です」
「「「は……?」」」
三人が同時に気の抜けた声を上げる。
「0秒です」
「いやいや、聞こえなかったわけじゃないぜ!」
「……ゼオンくんが言うのなら、そうなのでしょう。では、私を王都に連れて行ってもらえますか?」
「ええ。それで、カナリーゼは……」
「行きます」
「駄目です」
「……フィリナ様、何故ですか?」
「貴女は死にかけたばかりでしょう」
「大丈夫です。何なら、今までで一番調子がいいですよ」
「それでも、です」
「分かりました……」
「私は今から王都に行くから、騎士や侍女たちには貴女から伝えておいて。……じゃあ、ゼオンくん、よろしくね」
「ええ」
フィリナリア姫に頼まれた俺は、《時空間魔法》を発動する。
「うん。何したの? ゼオンくん……」
「そこは秘密ってことで」
一瞬の内に視界が切り替わり、俺たちの前には王都の建物の壁が広がっていた。
《時空間魔法》は、時と空間を操る固有スキルだ。
今回の利用方法は、空間を繋げての移動だ。
まぁ、簡潔に言うと、転移ってヤツだな。
「まぁ、いいわ。それより、情報を集めましょう」
「あ、その前に……」
俺は光魔法を使って、自身とフィリナリア姫の周囲への認識阻害を行う。
「これで、俺たちは人に認識されづらくなりました」
「ありがとう」
フィリナリア姫が王都に出かけるのに付き添う時も何度かかけた魔法だから、今回は驚かれることはなかった。
その後、俺たちは路地裏から大通りへと向かう。
「人が少ないわね……」
「ええ、皆んな家の中には居るようですけどね」
俺は、王都中の気配を探りながら言う。
「すみません、これ2つ下さい」
「はいよ、今日はあんた達が最後の客だ。これで店じまいだぜ」
「あぁ、大変ですよねぇ……」
情報収集のために、会話が続くよう仕向けるフィリナリア姫。
「まったくだぜ。まさか、反乱が起きるなんてな……」
「誰が起こしたんでしたっけ?」
「おう、確か、シクールとガドルカットス?とかいう侯爵家だったかな?」
「やっぱり……」
フィリナリア姫が呟く。
「ん?」
「いえ、何でもないです。では、この辺で失礼します」
「おう! あんた達も早めに家に帰るんだぞ!」
続けて俺たちが王都の街を散策していると、色々と情報が集まった。
「どうやら、シクール家とガドルカットス家がそれぞれ北と東の領地から兵を引き連れて、王都に向かっているみたいね」
「で、彼らの大義名分は、王様とリュザート様が非道な行いを裏で行っているときましたか」
「しかも、ジェラルドという仮にも王家の者を旗頭にしているとは、タチが悪いわね」
それらの軍隊は、両方ともが三時間くらいで王都に着く位置まで迫っているらしい。
それで、市街戦が行われることを恐れて、住民は皆、家に籠っている、というわけだな。
そもそも、既に王様が謎の集団に捕まっているようだし、リュザート様は側近の者と一緒に王宮から逃げたみたいだけどな……って、お?
「どうかしたの?」
「リュザート様の気配が掴めました。王都からは出ていなかったみたいです」
「分かったわ。案内して」
♢
「この建物の中に居ますね」
「行きましょう」
俺たちがやって来たのは、王都中層にあるごく平凡な一軒家だ。
コン、コンッ
ガチャ……
「何でしょうか?」
ノックすると、中からこれといった特徴もない普通の女が現れた。
だが、俺は女の警戒心を感じ取っていた。
「リュザート様に会いに来ました」
その女は笑顔を貼り付けたまま短剣を突き出してきたため、俺は無言で女の腕を掴んだ。
「……何者だ?」
「そんなに警戒しないで下さいよ……ほら、俺の後ろにはフィリナリア様がいらっしゃるというのに」
「? その女が? お前と同じく、イマイチはっきりしない顔だが……」
「ゼオンくん、魔法がかかったままになってるわよ」
「あっ、忘れてました」
俺は認識阻害の光魔法を解除する。
「え……ふ、フィリナリア様!?」
「リュザートお兄様の元に案内してくれるかしら?」
「は、はい、勿論でございます。此方へどうぞ……」
俺たちは、家の中へと招き入れられるのだった。
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