第61話 Aランク冒険者 vs Aランク冒険者


「「……」」



 ガルフとウルグート、両者の間に静寂が訪れる。


 二人は、互いに相手が強者であることを感じ取っていた。

 共に、いつも以上に相手の動きに注意を払う。


 先に動いたのは、ガルフだった。



 ガギィィイン!!



 ガルフの大剣とウルグートの剣がその刃を合わせる。



「クッ……! こんの、馬鹿力めッ!!」



 ウルグートは、力比べでは勝てないと見たのか、大剣を受け流し、連続で突きを放つ。



 キンッ! ガキ、キンッ!! ガンッ、ガキンッ!!



「グゥゥウッッ!!」



 今度は、攻撃の手数が足りなくなったガルフが、苦悶の表情を見せる。



「グ……オラァッ!!」



 隙をついて、攻撃に転じるガルフ。


 違った戦闘スタイルの二人が、自らの有利な状況に持っていき、逆に不利な状況に持ち込まれ、を繰り返し、激しい攻撃の応酬が続く。



「クッ、この強さ……ここは魔の森の近く……テメェはAランク冒険者ガルフか!!」


「そういうお前は、ウルグートとかいうAランク冒険者のようだな……!」


「ああ、そうだ! お前を殺して俺の力を証明してやる!!」



 表に出さないが実は、ウルグートは以前剣を合わせた時以来、ゼオンから底知れない恐怖を感じており、自らの強さへの自信が薄れていた。


 だが、ガルフという強者と出会ったことで、再びギリギリの戦いを求め、承認欲求が現れていた。



 (さっきの女性はまだ息があった。レベルが高いから、生命力も高いだろう……助かる可能性はある)



 一方のガルフは、早急に戦いを終わらせようと焦っていた。



「ハハハッ!! 楽しいなぁ……ガルフ!!」


「俺は全く楽しくねぇよ。イカれた野郎が……!」



 さらに猛烈な攻防が繰り広げられる。



 (仕方ない……)



 戦いが長引くとガルフは、ある行動をとることにした。



「ク、ハハハハッ!! どうした、ガルフ? 疲れてきたか!?」



 隙を伺うガルフの動きが鈍ると、ウルグートが攻撃の手を早める。



「違ぇよ! 時間がない! 悪いが、もう終わりにさせてもらう」


「あ? なんだ———なっ……!!」


「ウォオオッ!!」



 ガルフは、ウルグートの攻撃を防御せずに無視し、大剣を前に押し出す。



「ガハッ……! て、テメェ……何を、何故……! ゴハ……ッ、……。」



 ウルグートの心臓には確実に大剣が突き刺さっていて、ウルグートは直ぐに力尽きた。


 一方ガルフは避け切れなかった攻撃による傷が全身にあり、最後の捨て身の攻撃の代償は、自らの腹を貫く剣であった。



「グッ……!」


 (早く、ゼオユーランの元に行かねば……)


「門番」


「は、はい!」



 先程、カナリーゼと話していた門番は腰が抜けていて、ずっとその場から動けていなかった。



「街の中に入れてくれ」


「勿論です、ガルフさん!」


「あと、この女性も連れて行くぞ?」


「り、了解です!」



 門番が門の端の小さな扉を開くと、ガルフは地面に倒れているカナリーゼを抱きかかえると、ラキートの街に入る。



「ご苦労……グハッ」



 ガルフは深い傷を負った影響で、吐血する。



「大丈夫ですか、ガルフさん!? 教会に送りましょうか!?」


「い、いや、大丈夫だ。俺が走った方が速い」



 ガルフは門番の反応を待たずに走り出す。


 だが、ガルフは教会に行く気は無かった。



 (ゼオユーランならば、この女性の傷を治せるはずだ……)



 何故ならガルフは、以前目にしたゼオンの光魔法を頼ることにしていたからだ。



 (確か、ゼオユーランは侯爵邸に居ると言っていた)



 ラキートの街は寝静まっており、道を歩く人影は見当たらず、ガルフは大通りを突っ走る。


 暫くして、侯爵邸の門が見えてきた。



「おい! そこの怪しいヤツ! ……ガルフさん!? その傷は!?」


「すまないが、侯爵様に伝えてほしいことがある」


「はっ、分かりました!」



 ガルフはラキートの街の冒険者の頂点であるため侯爵と面識があり、侯爵邸の門番はガルフのことを知っていた。


 そのため、門番は素直にガルフの言葉に従うことにした。



「侯爵様に、フィリナリア姫の護衛のゼオユーランを呼ぶよう俺が頼んでいると伝え————いや、大丈夫だ」


「はい?」



 ガルフが突然言葉を切り、門番は首を傾げる。



「来てくれたようだな、ゼオユーラン」



 ガルフは安心した表情で呟いた。




   ♢



「ガルフさん! どうしたんですか!?」


「ゼオユーラン、すまんが、この女性を助けてやってくれ」


「カナリーゼがどうして……」



 フィリナリア姫が呟く。



「知り合いなんですか!?」


「兎に角、今は傷を治しましょう」



 俺は、極致級の光魔法を発動する。


 辺りが一瞬、眩い光に包まれる。


 収まった光の中心では、腹の傷が完全に塞がった状態となったカナリーゼとガルフが居た。



「お、おおっ! ありがとう、ゼオユーラン! 流石だな!」


「いえ、無事で良かったです。カナリーゼも、ね」


「……ああ、礼を言う、ゼオユーラン。それと……」



 目を覚ましたカナリーゼはそう言うと、ガルフさんの方へと視線を向ける。



「ん? 俺はガルフだ。あー……カナリーゼさん?」


「は、はい……助けて下さり、有難うございました。あ、あと、リーゼとお呼び下さい……」


「おっ?」「えっ、あのリーゼが!?」



 頬を染めたカナリーゼが、上目遣いでガルフさんに言う。



「と、取り敢えず、下ろすぜ!」


「あっ……」



 ガルフさんは、少し照れた様子でカナリーゼを離すのだった。








 

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