第59話 王宮にて……


 翌朝————。



「おはよう、ゼオンくん」


「おはようございます。よく眠れましたか?」


「お陰様で」



 結局、今回は暗殺者が現れることはなかった。


 正直、暇だった。カナリーゼはいつもこれをやっているのか……



「今日は真面目に仕事をするわ」


「どこに行くんですか?」


「侯爵お抱えの錬金術師たちの様子を視察しに行くのよ」



 錬金術師とは、主にポーションを作成する職業に就いている人々のことを示す。

 《錬金術》というスキルもあるらしいしな。


 ヨスィート侯爵領は冒険者の数が多いだけあって、ポーションの生産で有名なのだ。



「よ、ようこそいらっしゃいました。本日はどんなご用件で……?」



 俺たちは、ラキートの街の中心に近い場所に位置する建物に来ていた。



「少し作業風景を見学させて頂ければよろしいですよ」


「は、はい。どうぞこちらへ……」



 その錬金術師たちの責任者が先導する。


 建物の敷地内を歩いていると、所々にビニールハウスのような物が散見される。



「ここがわたくしども錬金術師の作業場でございます」



 研究所のような建物に到着した。



「皆、外部から見学したいという方がいらっしゃったけど、気にせず作業を続いて下さいね」


「「「「「分かりました」」」」」



 高齢の者が多い錬金術師たちは、此方を一瞥するも、直ぐに自らの手元に視線を戻し、作業を再開した。


 フィリナリア姫の正体を明かさないように指示したのは、彼女自身だ。

 王女としての自分が来たと知られれば、彼らが集中できないだろうとの配慮だ。



「い、如何でしたでしょうか?」


「非常に興味深かったです。皆様の様子を見て、錬金術への理解が深まりました」


「? それは良かったです」


「では、私たちはこれで失礼します」


「はっ、態々こんな所にいらっしゃり、有難うございました」



 夕食の時間帯に差し掛かっていたため、俺たちは侯爵邸へと帰るのだった。




   ♢



 その夜————。



「……ッ!?」


「ゼオンくん、どうしたの?」



 俺がフィリナリア姫の寝る部屋で護衛として隠密状態で立っていると、ある魔力に気付き、自らの姿を現す。



「すみませんが、俺に付いて来て下さい」


「分かったわ」



 俺の様子から只事ではないと察したフィリナリア姫はベッドから起き上がると、俺と共に窓から外に出る。


 夜の侯爵邸の広い敷地内を疾走する二つの影。


 侯爵邸の門に近づく中、ある場所でフィリナリア姫も状況が読み取れたようで、一瞬ハッとした表情となった。


 大きな門が姿を現し、その向こう側では、身体のあちこちから血を流している巨漢と、その男に抱きかかえられている血塗れの女性が居た。


 そして、その二人とは————ガルフさんとカナリーゼであった。




   ♢



 三日前の夜————。



 王宮内の広い廊下で、小競り合いが起きていた。


 一方は立派な騎士服を纏う二人の騎士団員で、この日は国王の護衛を任されていた、実力者だ。


 もう一方は粗野な雰囲気のある、Bランク冒険者の男二人に加え、目付きが悪い焦茶色の髪の男———ラズノートだ。



「コイツら、何処から入ってきやがった!?」


「分からん……だが、ここは通さんぞ!」


「ハッ、死にさらせ!」「いつまで俺たちの攻撃に耐えられるかな?」



 Bランク冒険者と騎士二人が斬り結ぶ。



「クッ、コイツら、中々やるな!」「ちょっと手伝って下さい、ラズノートさん!」



 だが、威勢の良かった冒険者二人は、次第に不利な状況に陥っていくと、助けを求めて叫び始めた



 バチッ!!



「———チッ、俺の名を呼ぶんじゃねぇよ。阿呆が」


「は……?」



 刹那、暗闇に剣閃が走り、一人の騎士の首が飛んだ。



「なんだとッ!?」



 バチッ!!



 残った騎士が目を見張るが、ラズノートと目が合った次の瞬間には目の前に銀色の輝く刃が現れ、そのまま意識が途絶えたのだった。



 ————その夜、国王は捕らえられた。


 続けて、戦闘が行われていることを感じ取った騎士が何人か現れた。

 だが、国王が人質にされたため、その中に居た、Aランク冒険者並の強さを持つと言われる騎士団長も手が出せず、国王と同じく、王宮の地下牢に入れられることとなった。


 その後、夜陰に乗じて何処からともなく現れた50名程の襲撃者は、瞬く間に王宮に居る騎士を全員捕らえ、王宮を掌握したのだった。




 王都の城壁から少し離れた場所を駆ける者が居た。


 その男は、ストゥード新聞社のと言われている者の一人で、シュッペルゼ王国各地に情報を素早く伝えるために王都に配置されており、移動に特化した固有スキルを持っていた。



 (まさか、王宮が制圧されるとはな……)



 男は、上司から国王を捕らえた者について伝えられており、急いでその情報を運ぶ役目を負っていた。



 (ま、俺はいつも通り仕事をするだけだ。ん……?)



 ふと、前方に立つ人影が見えた。



 (こんな夜中に王都の外に居るのか……? 怪しい奴だな……避けて行くか)



 そう思い、男は進路をズラした。

 だが————



 (何ッ!? コイツ、俺の速さに付いて来ている……いや、俺より速いっ!?)



 その人影は高速で走る男の方へと徐々に距離を詰めてくる。



 (不味い不味い不味いッ!! 俺に戦闘能力なんてないんだよ!!)


「俺はただの情報配達人だ! アンタが誰かは分からんが見逃してくれっ! 頼むッ!!」



 男は走りながら影に向かって声を掛ける。



「ほう? それを聞いて尚更見逃せなくなったぜ。悪いが死んでもらう」


「な———グべッ……!!」



 既に近くに来ていた人影が踏み込み、男を横から殴り飛ばすと、男は木に衝突し、首の骨が折れた。



「はぁ……つまらんな。こんな雑魚どもを狩っても全く楽しくねぇ……ん? 今回は今までのヤツより足が速そうだが、ちゃんと戦えるんだろうなぁ??」



 その人影は、王都の南西方面へと駆け出した。








 

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