第58話 再会
中に入ると、受付に向かう。
「ここは、Aランククラン『夜明けの君主』でございます。本日は何の御用で————」
俺と目が合うと、受付の女性が固まる。
「Aランク冒険者、ゼオユーランっ!?」
「はい、そうですが、ウォ……」
「直ぐにクランマスターをお呼びいたしますのでお待ち下さい!」
「あっ……」
頭を深く下げた女性は、そう言い残すと直ぐに階段を駆け上がって行った。
「彼女、ゼオンくんのことを知っていたようね?」
「あぁ……以前、ここに来た時にも受付をやっていた人だからですね」
「なるほど」
「————ゼオユーラン!!」
「ガルフさん」
「久しぶりだな! いつラキートに戻ったんだ!?」
「丁度、今日ですよ」
フィリナリア姫と話していると、ガルフさんが階段の上から現れた。
「随分、大きくなったな!」
「成長期なんですよ」
「はっはっは! それもそうか!」
「ウォルクとサラは居ないようですね?」
「おう、アイツらはよく働いてるもんでな! 今は討伐依頼で魔の森に出掛けてるぜ」
「なるほど」
「それより、そこの嬢ちゃんはお前の冒険者仲間か?」
「いえ、彼女はこの国の王女様ですよ」
「え……本当か?」
「嘘を吐く理由なんかないですよ」
「これは失礼いたしました、殿下。本日はうちのクランにどのようなご用件で?」
ガルフさんは、態度を一転させ、優雅に礼をとる。
「あぁ、私はゼオユーラン様に付いて来ただけですので、お気になさらず」
「付いて、来た……!?」
「ええ」
「……少々、コイツを借りますね」
「……? どうぞ?」
「おい、こっちに来い、ゼオユーラン!」
ガルフさんが奥に移動して、俺に手招きしてくる。
「何ですか?」
「お前……王女とデキてんのか!?」
「はぁ!? 違いますよ! 俺はただの護衛です!」
「ホントかぁ?」
「勿論です」
「ま、そう言うなら、分かったよ。お前が結婚する時は盛大に祝ってやろうと思ったんだがな」
「ガルフさん、話が飛躍しすぎですよ……」
俺が呆れた表情を向けると、ガルフさんは大声で笑うのだった。
♢
『夜明けの君主』のクランハウスを出た後、俺たちは、ある宿に来ていた。
「すみませーん」
「はーい、宿泊の方で……ゼオンくん!?」
「久しぶりですね、ノーラさん」
「帰ってきてたんですね!」
「まぁね」
ノーラさんが宿の奥から出てきた。
三年が経ち、彼女は大人の雰囲気を漂わせていた。
「————それと、子供が居るようですね。おめでとうございます」
「へっ!?」
ノーラさんが驚いた顔をする。
その反応……やっぱり気付いてなかったのか。
「本当ですか!?」
「ええ。ノーラさんのお腹の中から僅かですが、確かに気配を感じますよ」
「そうなんだぁ……」
「それで、お相手は?」
「彼なら————」
「ノーラ、お客さん?」
「あっ、丁度、来たみたいだわ!」
宿の奥から現れたのは、紫色の髪に青色の瞳の二十歳くらいのイケメンだった。
「ノーラ、どうしたんだい?」
「ゼオンくんが来たのよ! あ、あと、私たちの子供ができたみたいよ!」
「おおっ、それは良かった! それと……へぇ、君がノーラの初恋の男、ゼオユーランか」
「ん? 初恋……?」
「ちょっと、ラケル!」
ノーラさんが慌てたような仕草でイケメン————ラケルに詰め寄る。
「ごめんごめん。ただ、ノーラの慌てる姿が見たかっただけだよ」
「もうっ、ラケルったら!」
「あははは」
そう言って、戯れ合う二人を見ていると、彼らの仲の良さが窺える。
というか俺ってノーラさんに惚れられてたんだ? 全然知らなかった。
「そういえば、ゼオンくん。ラキートへは何をしに?」
「あぁ……ちょっと、王女様の護衛でね」
「王女様ッ!? 護衛なのに、こんな所に居ていいの!?」
「えーと、実は、その王女様はここに居るんだよ……」
「「えっ!?」」
俺がフィリナリア姫の方へと視線を向けると、二人が同時に驚きの声を上げ、放心状態となる。
「んじゃ、そんなわけだから、また会いましょう」
その間に、俺たちは宿を出る。
「次は……流石に魔の森まで行くのは不味いな」
「私は構いませんよ?」
「いや、もう夜遅い時間ですし、戻りましょうか」
俺たちは侯爵邸に向かうのだった。
♢
「ゼオンくん」
「何ですか?」
俺は、光魔法を解除し、姿を現す。
ここはフィリナリア姫に宛てがわれた、侯爵邸の三階にある一室だ。
「ごめんなさい、居るか確認したかっただけです」
「別にいいですよ」
今回は、王宮でないうえ、カナリーゼも居ないから、不安なのだろう。多分。
いくら俺が人外の力を持っていようと、睡眠欲には逆らえない。
そのため、俺は《時空間魔法》を利用し、身体の時間を今日の朝まで巻き戻したのだ。
フィリナリア姫が侯爵領に滞在する間は、毎日そんな感じで夜の間も護衛を行うことにした。
因みに、フィリナリア姫とカナリーゼには、俺も睡眠をとる必要はないとだけ伝えてある。
「「……」」
静かだな……
王城に居る時は、三日に一回は暗殺者が来てたし、油断はできないがな……
俺は、窓の外の月を眺めながら、夜が明けるのをじっと待つのだった。
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