第55話


「最高だったな!」


「そうだな……お前が言うだけのことはあったよ」


「どうだ? 偶には貴族街の店もいいだろ?」


「高いから、そう何度も行くことはできんがな……」


「まぁ、あそこは王城に近いだけあって、第一王子も常連らしいしな!」


「ほー、そいつはスゲェな」



 先程の遣り取りを終えて、少し奇妙な雰囲気になった俺たちが無言で王城に向かっていると、前から二人の男が話しながら歩いてくるのが見えた。



「「あっ!」」


「スレグストさん?」


「ゼオユーラン、か?」



 そう。その内の一人はスレグストさんであったのだ。



「お前、生きてたのかっ!?」


「えぇ……なんで俺が死んだと思ったんですか!?」


「だってよぉ……この王都で冒険者やるって言ってたのに、あの後ギルドに居ても、一度もお前に会わなかったからよ……」


「あ……まぁ、兎に角、俺は生きてますよ」


「おぉ……良かったよ、本当に……」



 そう言って、顔を綻ばせるスレグストさん。


 ほんの少しの付き合いしかなかった俺をこんなに心配してくれていたとは、有り難いな。



「ところでよ……ここ一年、王都のギルドでお前と同じ名前の子供がAランク冒険者やってるんだが、知り合いなのか?」


「あー……」



 俺は頰を掻いて、心の中で慎重に言葉を選ぶ。



「それは……」


「————お前だろ?」


「……貴方は?」



 突然、スレグストさんの隣に居る、筋骨隆々の男が話に割り込んでくる。



「俺はオルム。冒険者をやっている」


「そうですか……それで、オルムさん、何故その子供が俺だと思ったんですか?」


「その気配。そして、俺でも感知できない魔力……それがお前と同じなんだよ」


「よく分かりましたねぇ」



 俺がギルドに行ってる時に見ていたのか。

 鋭いオッサンだな……



「えぇっ、ゼオユーランはAランク冒険者だったってことか!? というか、子供になれるのか!?」


「まぁ、そうですね」


「おぉ……」



 スレグストさんが感心したような声を漏らす。



「……ん? そっちの女は誰だ?」



 オルムがフィリナリア姫の方を見て、不思議そうな顔で尋ねてくる。



「あっ、此方は————」


「おい、ゼオユーラン! この嬢ちゃんは誰だよ! 可愛すぎないか!?」


「えぇ……」



 スレグストさんが少し興奮した様子で話しかけてきて、俺は困惑の声を上げる。



「チッ、お前は顔立ちが良いからな! こんな美人とこれから楽しんでくるとでもいうのか!? 不公平な世の中だ!」


「何処で楽しむって言うんですか?」


「そりゃあ、この先には……あれ? ここは貴族街だぞ? まさか……貴族様でしたか……?」


「ええ。私のことはフィリーとでも呼んで下さいませ」


「挨拶が遅れてすみません!! どうかお許しを!」


「別に気にしていませんよ」


「有難うございます! では、今日はこれで失礼させて頂きます! ほら、行くぞ、オルム!」


「……。……ん? あぁ、分かった」



 オルムは急ぐスレグストさんに連れられて、二人は去って行った。



「あの二人、強いわね」


「ええ。スレグストさんは一年前、Bランク冒険者と言っていましたが……オルムという男はこの前会ったAランク冒険者より強そうですね」


「へぇー、そこまでは分からなかったわ」



 フィリナリア姫は感心したように言う。



「それに……彼、何かに驚いてましたね」


「そうね。私のことを知っていたとか……?」


「そうかもしれないですね」



 結局、俺たちは深く考えることはせずに、王宮へと戻ったのだった。




   ♢



「————チッ……」


「……何だよ、オッサン?」


「何でもねぇよ」



 俺が護衛専用の宿舎に戻ると、廊下で俺と目があったウルグートが舌打ちをしてきた。



「そういえば、オッサンって、なんで第二王妃の護衛をしてるの?」


「何故、お前に言う必要が————」


「いやぁ……フィリナリア様も気になっていたようでさ?」


「チッ……まぁ、いい。……金を稼ぐために決まってんだろ」


「本当? オッサンは戦う方が好きそうに見えるけど?」


「お前には関係ないだろ。……兎に角、そういうことだから、もう俺に話しかけるな」


「へいへい」



 俺は再び歩き出し、オッサンの横を通り過ぎて、自分に宛てがわれた部屋へと向かう。



 (んー……カナリーゼはいつ寝てるんだろ?)



 俺はベッドに腰掛けると、王宮内の気配を探りり、そう呟く。


 寝る前や、偶に目を覚ました時に、フィリナリア姫の私室周辺を探知すると、必ずカナリーゼが潜んでいるのだ。



 (明日、フィリナリア様に聞いてみよう……ん? またか……)



 そんなことを考えていると、彼女の部屋の近くに潜む、カナリーゼ以外の魔力を感知した。



 (しつこいヤツらだなぁ……誰の命令で来てるのかは知らないけどね)



 それは、暗殺者であった。

 フィリナリア姫は貴族の男性以外に、暗殺者たちにも非常にモテるのだ。


 日々成長している俺の感知能力は、遥か遠くに居る生物の様子すらもその場に居るかのように把握する。



 (じゃあ、今日も暗殺者さんには退場願おうか……この世から、ね……)



 瞬間、俺の部屋の窓の隙間を一筋の光が通過すると、迂曲した軌跡を空中に残し、暗闇に潜んでいる暗殺者の頭を正確に貫いた。



 (はい、終わり〜 よし、寝るか!)



 俺は一仕事終えると、ベッドに飛び込み、そのまま眠りについたのだった。











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