第54話 友人?


「ご無沙汰しております、姫様」


「————セグルムート侯爵」


「ウチの娘と仲良くして下さり、ありがとうございます」


「こちらこそ、レイナには世話になっているわ」



 セグルムート侯爵が現れ、フィリナリア姫に挨拶をし、世間話をする。



「————して、そちらのゼオユーラン殿には戦力の一つになってもらうので?」


「どういう意味でしょう?」


「姫様も耳にしているでしょう? 第一王子派のガドルカットス、シクール、両侯爵家の領地に兵が集まっているという噂ですよ」


「……何が言いたいのですか?」


「Aランク冒険者ともなれば、一軍に匹敵すると言われています。ならば————」


「彼を戦争に参加させろと? 貴方はそうおっしゃったのですか?」


「うッ……!」「「「「「……!!」」」」」



 濃密な魔力が解き放たれ、会場内の人々の動きが止まる。


 その魔力の発信源は……フィリナリア姫だ。



「彼には指名依頼を出して私の護衛をしてもらっているのにすぎません……それを逸脱したことをさせるつもりなどありませんよ」



 そう言い終わると、周囲に漏れた魔力が弱まる。



「は……差し出がましいことを申し、申し訳ございません」


「分かったのならいいのよ。……皆さん、気にせず、パーティーを続けて下さいね」


「「「「「……」」」」」



 言われた通りに、再び会話を始める貴族たち。



「フィリナリア様、私の父がすみませんでした」


「レイナ、そんなに他人行儀に振る舞わないでよ……確かに、貴女の父親には少し腹が立ったけれど、貴女は私の大切な友人なのよ?」


「フィリナ……!」



 再び漂う神聖な空気……!

 百合ルートか!? そうなのか!?



「ゼオンくん、馬鹿なこと考えてるわね……」


「ふぇっ!?」



 ジト目で此方の方を見るフィリナリア姫。

 ……何故バレた!?



「あはは、二人は仲がよろしいのですね」



 その遣り取りを見たクレレイナ様が微笑ましそうに言うのだった。




   ♢



 パーティー終了後。


 夜道を歩く俺とフィリナリア姫。

 勿論、カナリーゼも近くに潜んでいるが……


 他のパーティー参加者たちは、馬車で自らの住居へと帰ったが、フィリナリア姫は外を歩くのが好きらしく、こうして馬車に乗らずに王城へと向かっている。



「ゼオンくん、先程はごめんなさい」


「え? 何がですか?」


「貴方を王侯貴族同士の争いに巻き込もうとする話が出たことです」


「……そもそも、第一王子派は何故戦いの準備を?」


「恐らく、内乱を起こして、王位を第一王子の物としたいのでしょう」


「そのリスクを冒すメリットはあるんですか? 第一王子だって十分に王となる可能性があるのに……」


「前にも言った通り、第一王子のジェラルドはクズです。アイツを遊ばせている間に、第一王子派の者は、自分たちの都合のいい政治を行うことができる。その時に、現王のお父様や、第二王子のリュザート兄様は邪魔なのでしょうね……ジェラルドは仮にも王族の血を引く者ですから、王位を奪った時の、国民の反発も少ないと予想しているのでしょう。他の王族を殺した理由などは、全てが終わった後に幾らでも捏造できると思いますしね」


「なるほど……それで、第二王子派のセグルムート侯爵は俺に手伝って欲しいと言っていたわけですね」


「はい。ですが、ゼオンくんがそんなことに参加する必要などないですよ……第一王子の母、ドルキア王妃は戦局を左右させるAランク冒険者を既に何人か囲い込んでいるらしいですし……」


「でも、フィリナリア様は中立ではなく、リュザート様を助けるつもりなんですよね?」


「ええ……第一王子派の好きにはさせないわ」



 この国の王子はジェラルドとリュザート王子だけ。

 第一王女は国境付近の防衛を指揮し、明確に中立を宣言していて、第二王女と第三王女は既に他の国の者に嫁いで、国外に居る。

 そして、第四王女のフィリナリア姫は、宣言は無くとも、第二王子派として知られている。



「それならば、俺は貴方を手伝いますよ……戦争にでも、手を貸します」


「でも、それは護衛の範疇を超えているでしょ!? 死ぬかもしれないんですよ!?」



 初めて、声を荒らげるフィリナリア姫。



「やっと、感情で話してくれましたね」


「ぁ……」



 俺がその双眸を覗き込むと彼女は小さく息を漏らす。



「俺は、気ままに生きてますが、友人を助けないほど、薄情ではありませんよ」


「友人……」


「はい。それとも、俺と貴女は友達にはなれませんか?」


「い、いえ! そんなことはッ! 勿論、ゼオンくんは私の友人、ですよ」


「では、俺は貴女を助けます。……とはいえ、まだ内戦が起きると決まったわけでもありませんし……俺は誰にも負けませんよ」



 そう言って、俺は不敵に笑うのだった。










———————


 あとがき


 急にシリアスでも、異論は認めん……



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