第53話
『過去の勇者たちの記録から、この称号は以下の効果を発揮すると推察する。』
おっ、称号の効果は実は俺も知らないからな……有難い。
『
一、成長促進————レベルアップや
スキル取得の速度
上昇
二、筋力増大
三、あらゆる武器類の扱いへの補正
四、長寿
五、精神安定————極度の感情の
昂りや、
急激な意識喪失を
防ぐ
六、固有スキルの保持
』
へぇー、面白いな……確かに、俺の固有スキル、《成長促進》が強力すぎる気がしてたんだ。
だけど、この称号との相乗効果で俺の成長が早まっていたとしたら、納得だ。
長寿……は意味ねーな。
《時空間魔法》で寿命操作できるし……
「勇者かぁ……」
「どうしたの?」
「あぁ、もう読み終わったんですか?」
「ええ。それで、何か変わったことでも書いてあったの?」
「勇者の能力について書いてありましたが……そもそも、勇者ってどうやって召喚されるんですか?」
「————300年周期で王城の地下にある魔法陣が輝いて、そこに魔力を注ぐことで、一度だけ召喚できるのよ」
「次は何年後なんですか?」
「一ヶ月後よ」
「へぇー……って、結構近いですね」
「そうね。……お父様は、それまでに王の跡継ぎを決めるとおっしゃっているけれど、まだどうなるか分からないわ」
「第一王子ってどんな人なんですか?」
「ジェラルドは……一言で言うと、クズね」
「クズって……」
兄に随分と酷い評価をするものである。
「アイツはね、色んな女性に手を出しているのよ。バレてないつもりなのかは知らないけれど、私すらも誘ってくるのよ?」
「うわぁ……血のつながりがあるのに?」
「ええ。正直、アイツが私の身内に居るのが不快だわ」
「ははは……」
フィリナリア姫のピシャリとした物言いに、渇いた笑みを返す。
「……そろそろ時間のようね」
「この後は何処に?」
「セグルムート侯爵令嬢の誕生日パーティーに行くわ」
「あれ? いつもはパーティーの参加を渋ってるのに?」
「最近は会ってないけど、彼女とは学園の頃からの付き合いで、仲がいいからね」
学園とは、シュッペルゼ王国全域の12〜15歳の子供を対象にした、この王都にある学習施設だ。
フィリナリア姫も通っていたらしい。
「へぇー、フィリナリア様、友達居たんですね」
「失礼ね。私にも友達くらい居るわよ……それに、ゼオンくんこそ友達は居ないでしょ!」
「……」
フィリナリア姫の指摘に、俺は苦笑いをして誤魔化す。
そう、俺はこの王都で知り合いと言える人はフィリナリア姫とクラードル伯爵家の皆さんくらいしか居ないのだ……
「まったく……行くわよ」
「はい」
俺たちはパーティー会場に向かうのだった。
♢
普通、最も位の高い者はパーティー開始時刻から遅れてやってくる。
パーティーの参加者たち同士で、ある程度親交を深めた頃に現れることになっているのだ。
フィリナリア姫もその例に洩れず、遅めに会場内に入った。
「姫様、私の次男を婚約者にどうでしょう?」
「俺は王都の剣術大会で準決勝まで行ったことがありまして……」
「フィリナリア王女、僕は二つの魔法を扱えます! 婚約者になってくれませんかっ!」
「僕の長男は器量がいいのですよ! どうでしょう?」
「いやいや、私の子こそ————」
すると、野心に溢れた貴族たちがフィリナリア姫の元に我先にと集まってきて、婚約を申し出てくる。
フィリナリア姫は王族にしては珍しく、婚約者を持たない。王族であるうえ、才能に恵まれている彼女に目を付ける貴族が多いのは自明だ。
尤も、その美貌に惹かれ、親の静止を無視して衝動的に婚約を申し出る子供も居たようだが……
「すみません。今日は友人を祝いに来ましたので、また別に機会があれば……」
という感じで、全てやんわりと断られていた。
フィリナリア姫が、同じように貴族たちが集まっている場所に向かうと、前に居る人々が進行方向から外れる。
「レイナ、久しぶりですね」
「……! フィリナ! 来てたのね!」
そこには、桃色の髪に赤色の瞳の美人が居た。
名前と特徴から察するに、この女性が今回のパーティーの主役のセグルムート侯爵令嬢だろう。
「ええ。貴女の誕生日だもの」
「最近、会わなかったけど、何かあったの?」
「コホンッ……クレレイナ様、言葉遣いに気を付けて下さい。ここは私的な場ではないのですよ?」
「あ……そ、そうね」
背の高い側仕えの女性が注意をすると、セグルムート侯爵令嬢は焦ったような仕草をする。
「相変わらずレイナは、ユシカさんには頭が上がらないのですね」
「はい……フィリナ様は何か変わったことでもありましたか?」
「ゼオユーラン様のおかげで、人の多い場所にも出れるようになりましたよ」
「ゼオユーラン……? 男の名前……!?」
「ええ、こちらの彼はAランク冒険者なのですよ」
「そちらの方が……随分と若いのですね。フィリナ様が男性の方を雇うとは、意外です」
前から思ってたけど、フィリナリア姫が連れている従者には男が居ないんだよな……
彼女の知り合いに会うたびに、男の俺が側に居るのに言及されるんだが……昔、何かあったのかな?
「改めまして、レイナ、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、フィリナ様」
そう言って、微笑み合う二人。
うーん、絵になるな……
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