第51話 第二王妃
度々、街中へと繰り出すフィリナリア姫について行ったり、図書館で本を読む彼女の近くで本を漁ったり、訓練に付き合ったりして、三ヶ月が経った。
「————フィリナリア様?」
「ゼオンくん、先に謝っておくわ……ごめんね」
フィリナリア姫の顔が強張るのが見えた俺が声を掛けると、そう返される。
数十秒後、王宮の通路の前方から、装飾過多な身なりをした30代後半くらいの女性が、護衛と見られるオッサンを伴って現れた。
「あら、第四王女じゃない。相変わらず生意気な顔をしてるわね」
「ご無沙汰しております、ドルキア王妃。貴女もお変わりないようで」
「ふん……賤しい女の子供が」
目を合わせて早々に憎まれ口を叩く女性。
名前から判断すると、第二王妃のようだが、いくら敵対派閥の者とはいえ、ここまで口が悪いとはな……
「出自がどうあれ、お母様は第一王妃です。第二王妃様が馬鹿にする資格はないですよ」
「……お前と話す時間が勿体ない。私はもう行くわ————ん?」
そこで、ドルキア王妃が俺の方を舐めるような視線で見てくる。
「そこのお前。名は?」
「? ゼオユーランです」
「そうか、家名はないようだな……今日の夜は私の部屋に来い。私の相手をさせてあげるわ。光栄に思いなさい」
「「……」」
俺とフィリナリア姫は揃って黙り込む。
これは、予想外の言葉が飛んできたな……
この女、ショ◯なのか?
「誰が年増の相手をすんだよボケ。殺すぞ」
「「……」」
今度はあちらの二人が言葉を失って、呆けた顔をする。
おっと……思いの外、汚い言葉が出てしまったぜ。
「な、な、な……こ、この! 平民のガキが! 私が誘ってやったのに断るとはな! しかも、この私に無礼な言葉を吐いたな!!」
「は? なんで俺がアンタの言葉を聞かないといけないんだよ」
「私はこの国の第一王子の母親ですわよ! 私に逆らって良い者はいない!! 顔はいいから、一晩可愛がってやろうと思ったが……。ウルグート、このガキは殺してしまいなさい!」
ドルキア王妃が後ろの50代くらいの男性に命令する。
「はいはい、分かりましたよ王妃様。……そこのガキ、悪く思うな。お前の口が災いとなったな」
男が腰の剣を抜き、俺の方へと歩み寄る。
「へぇ……オッサン、少しはやるようじゃん?」
俺は男の身のこなしと魔力の流れから、一般的に見て、相当な実力者であると判断する。
「ガキが……Aランク冒険者の俺を舐めてんのか?」
「まさか、Aランク冒険者を雇っていたとはね、ドルキア王妃」
フィリナリア姫が呟く。
Aランク冒険者は現在、俺を含めてこの国には六人しか居ないはずなんだが……
「オホホホ! そうですわよ! 私の護衛に雇ったのですよ! いくら天才でも、この男の攻撃からお前の男娼を守れはしないでしょう?」
一旦、勘違いされてるのは置いといて……仮にも王妃なのに、この女の近くに他の護衛の気配が感じられないと思ったら、Aランク冒険者が居るから安心している、というわけか……
「フィリナリア姫。王妃様の命令ですので、今からそこの子供を殺します。血を浴びたくないなら離れていて下さい」
「そうですわよ、第四王女! 余計なことはするんじゃないわよ!」
この女、一々、五月蝿いなぁ……
「安心しろ、ガキ。すぐにあの世に送ってやるからな」
「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと掛かって来たらどうなんだ、オッサン?」
「————死ね」
瞬間、男が踏み込み、俺の目の前に現れる。
小さく笑みを浮かべた男が、俺の首目掛けて剣を振るってくるのが見える。
キィンッ!
「遅ぇよ」
「何だと!?」
二つの剣が鍔迫り合いをする。
「ぐ、グゥゥ……ッ! このガキ、なんて力だ……!」
「ねぇ、今日はこの辺にしとかない? オッサンは王妃の護衛が仕事なんでしょ?」
「なにをッ! ……いや、そうだな。今日は辞めておいてやろう!」
俺が距離を取ると、オッサンが剣を収める。
「な……ウルグート! そこのガキを殺せと命令したはずですよ!」
「はい、そうなんですが……ヤツはBランク冒険者並の力を持っているのが分かりました」
「あのガキが!?」
「ええ。勿論、本気で戦えば俺が勝つのですが、ここは王城ですし、何より、ヤツが王妃様を狙ってきたら俺も対処が難しいと判断しました」
「くっ……それなら仕方ないわね! ガキ、今日は見逃してやるけれど、覚えておきなさい!」
そう言い残し、ドルキア王妃はオッサンを連れて去って行った。
「はぁ……あの女。まさか、ゼオンくんを攻撃してくるとはね」
「そうですね。……王妃と言えども、何故あの人はあんなに偉そうなんですか?」
「そうね、場所を変えましょうか」
俺たちはその場から移動するのだった。
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