第48話 第一王妃と第二王子
「お母様、私よ。入ってもいいかしら?」
「フィリナね。……いいわよ」
「失礼します」
フィリナリア姫についていき、部屋に入ると、蒼銀の髪に藤色の瞳の女性がソファーに座っていた。
フィリナリア姫がテーブルを挟んでその女性の対面に座り、俺はその後ろに控える。
「五日ぶりね、フィリナ」
「そうですね……お母様もお変わりなく」
フィリナリア姫がお母様と呼んだ人物————第一王妃は34歳と聞いていたが、若々しく、20代前半と言われても、頷いてしまいそうだ。
「ところで、其方の男の子はどなたかしら?」
「Aランク冒険者のゼオユーラン様です。彼には、私の護衛をしてもらっています」
「あら? ということはこの子、貴方より強いのね? 何歳なの?」
スゥージー王妃が俺に向かって尋ねる。
「12歳です」
「その若さで凄いわねぇ……うちの子は同年代の子供たちに負け無しだったし、鼻を折るのに丁度いいんじゃないかしら?」
「お母様……私は彼らに勝ったくらいで自慢したことなんてないでしょ?」
「あら、その考え方が、既に不遜じゃないかしら?」
「そうかもしれないですね……」
「そんな深刻に考えなくていいのよー? ただの雑談だからねっ」
そう言って、茶目っ気のある視線を娘に向けるスゥージー王妃。
「お母様、ドルキアさんのご様子はどうですか?」
「————変わらず、精力的に行動していらっしゃいますよ」
「そうですか」
母娘の間に暗い雰囲気が漂うが、それも一瞬のことだった。
コンコンッ
「スゥージー様、そろそろお時間です」
「あら、分かったわ。またね、フィリナ」
「ええ」
スゥージー王妃は従者を伴って、談話室から出ていった。
「では、私たちも行きましょうか」
少しして、フィリナリア姫が部屋を出ようと立ち上がる。
「分かりました」
♢
「おっ、フィリナか」
「ご機嫌よう、リュザートお兄様」
俺たちが廊下を歩いていると、前方から金髪に同じ色の瞳を持つ美男子が現れた。
「そんな堅苦しい言葉を使わないでくれよ……ただでさえ、あのオバさんの顔を拝んできたばかりで気分が悪いんだ」
「お兄様……誰かに聞かれたらどうするつもりなんです?」
「大丈夫だ。コイツらは信頼できるからな」
そう言って、リュザート————この国の第二王子は後ろの男女に視線を遣る。
「はぁ……」
「可愛い妹に溜め息を吐かれるとは、お兄ちゃん悲しいよ……ん? フィリナが男の子を連れている!?」
そこで漸く俺の存在に気付いたのか、リュザート王子は驚きの声を上げる。
「ま、まさか、フィリナにそっちの気があったとは……」
「何を勘違いしていらっしゃるのかは知りませんが……彼は今日から私の護衛をすることになった、Aランク冒険者のゼオユーラン様です」
「この子がAランク冒険者……!?」
毎回、驚かれるからか、この遣り取りを聞くのはもう慣れたよ……
「ええ。私など彼の足元にも及ばないですよ」
「それ程とはね……」
リュザートが俺の方をジッと見てくる。
「妹をよろしくね」
「ええ。少なくとも依頼の間、誰にもフィリナリア様を傷つけさせませんよ」
「とはいえ、フィリナが敵に遅れをとることなんて無いと思うけどねっ」
「まぁ、そうでしょうね」
(何せ、お姫様なのに剣も魔法も高ランク冒険者並に扱えるんだからな……)
フィリナリア姫には何をやらせても完璧にこなすと専らの噂だ。
彼女はハイスペックな女性なのである。
「それじゃ、俺は仕事があるからこの辺で行くとするよ」
「お兄様、お元気で」
「フィリナも元気でねっ!」
リュザート王子はフィリナリア姫にウィンクして、去っていった。
(彼がこの国の次期王の候補者、リュザート王子か……。中々、気さくな人だったな……)
俺は遠ざかっていく彼らの気配を感じながら、そう思うのだった。
♢
「————ゼオユーランくんの素性を調べておいてくれ」
「分かりました」
一方、リュザート王子は従者に命令を下していた。
「……しかし、よろしいのですか?」
「何がだい?」
「その……フィリナリア様が連れている者を穿鑿するようなことがですね……」
従者の一人が言いにくそうに告げる。
「あぁ、俺は別に彼自身を疑っているわけではない。ただ、Aランク冒険者と言えば、誰かしらの貴族と繋がりがあってもおかしくないだろ?」
「……殿下の敵対派閥の者と関係があったら、彼が敵に回る可能性があるということですか?」
「そういうことだ」
現在、シュッペルゼ王国の貴族たちは第一王子派、第二王子派、中立派の三つに分かれている。
第二王子のリュザートが第一王子派の動きを気にするのは当然のことだ。
まして、あの王宮騎士団の団長に匹敵すると言われる、Aランク冒険者に関する事柄は特に慎重に扱う必要がある。
「———リュザート様」
「何かあったか?」
リュザートのすぐ側に黒衣に身を包んだ者が現れる。
「ジェラルド様が平民の女性に手を出したとのことです」
「またか……」
リュザート王子が呆れたような顔になる。
「アイツは都合の悪いことを揉み消すことだけは一流だから……いや、優秀なのは部下か……。どうせ意味はないが、その件で第一王子派を追及してみてくれ」
「はっ……」
その者は返事をすると、姿を消した。
「はぁ……」
「……ジェラルド様にも、困ったものですね」
「まったくだ。半分は血の繋がる兄だが、アイツだけはこの国の王にはさせない」
改めて決意するリュザート王子は、今日も王座に向けて奮闘するのだった。
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