第47話 


「ゼオユーラン様。改めて、よろしくお願いします」


「こちらこそ。フィリナリア様」



 翌日、俺は冒険者ギルドに届いていた指名依頼を受けると、そのまま王城のフィリナリア姫の元へとやって来ていた。



「では、護衛していただくのにあたって、伝えることがいくつかあります」


「ああ」


「まず、敵だと間違えて、常に私の側に潜んでいる侍女のカナリーゼを攻撃しないように、彼女の気配や魔力を覚えてほしいのです」


「あぁ……今、天井裏に居る女のことでしたら、もう覚えましたよ」


「やはり、気付いていましたか」



 あ、因みに、昨日の戦闘メイド(?)の女性のことね。



「……また、私の側付きとなるのですから、この城の廊下で他の王族や貴族に会っても、基本的に挨拶などをする必要はありませんが、王に会った時には、胸に右手を当てて頭を下げなければなりません。よろしいですか?」


「ええ、それは勿論」


「それなら良かったです」



 俺の父は最低位だが、一応は貴族である。

 目上の人へと敬意を表す挨拶の方法くらいは教えられた。



「————あとは、依頼書にも書いた通り、私が寝る時間帯は護衛の必要はないということと、三食寝所付きだということくらいですね」


「俺の寝る場所は何処なんですか?」


「この王城の敷地の一画に、ゼオユーラン様のように王族の護衛を行う、騎士ではない者たち専用の宿舎がございますので、ゼオユーラン様はそちらで泊まることになります」


「なるほど、分かりました」


「では、早速行きましょうか」


「?」


「ふふ、護衛依頼はもう始まっていますよ。……今日は訓練場に行きましょうか」



 その後、俺たちは王城内の訓練場にやってきた。

 どうやら、この訓練場は王族専用らしく、この広い場所に居るのは俺とフィリナリア姫と御付きの侍女一人だけと言う何とも不思議な空間が形成されていた。

 相変わらずカナリーゼは、見えない所に潜んでいるけどね。



「何をするんですか?」


「そうですね……折角なので、剣の相手になってくれないですか?」


「フィリナリア様は魔法だけでなく、剣も使えるんですか?」


「少し嗜む程度ですが……そういうゼオユーラン様こそ、両方使えるのでしょう?」


「まぁ、そうですが……」



 そう言いながら、フィリナリア姫は訓練場の端に固まっている木剣から二つを手に取り、片方を俺に向かって投げてきた。


 俺はそれを片手で受け取ると、既に準備を終えたフィリナリア姫に向かって構える。



「いいですか?」


「いつでもいいですよ」


「では、行きますッ!」



 カンッ! カカンッ!



 あれだけの魔法の技量を持っていて、剣もこれだけ上手く扱えるのか……恐らく、《剣術》スキルは上級だろう。


 俺はフィリナリア姫と剣で打ち合いながら、驚嘆する。

 上級のスキルと言っても、俺とフィリナリア姫との身体能力には大きな隔たりがあるため、全く危うげなく、全ての斬撃を捌き切る。



「そろそろ休憩にしませんか?」


「ハァハァ……そ、そうしましょうか……」



 数十分後。


 息を切らしたフィリナリア姫が地面に倒れる————なんてことはなく、王女らしく、上品にベンチに座っていた。



「ゼオユーラン様、どうして貴方は汗をかいていないのですか……」


「肉体強度の差、ですかね?」


「何ですか、それは……」


「まぁ、俺が反則なだけですよ」


「はぁ……そうですか……浄化」



 フィリナリア姫の身体を一瞬光が包んだかと思うと、少しの汚れや汗は綺麗に無くなっていた。



 (光魔法で身体の汚れを落とすとは……今まで、汚れは水魔法で洗い流してきたのに、ちょっと損した気分だ)


「フィリナリア様は本当に魔法の使い方が上手いですね」


「そうでしょうか? ゼオユーラン様の方が途方もない量の魔力を持っていそうですが……」


「ええ、確かに、俺の魔力量は一般の魔法師より(圧倒的に)多いですが、魔法の発想の部分でフィリナリア様には勝てませんよ」



 知り合って短いこの間で、既に彼女の魔法の様々な利用の仕方を見て、彼女よりも魔法の応用力で大きく劣っていると自覚した俺であった。



「あ、ありがとうございます」


「ところで、この後の予定はどうなっていますか?」


「え……あっ、この後は……どうしようかしらね?」


「えぇっ!? 王女様って毎日が予定で埋まってるイメージがあったんですが……」


「私は第四王女ですし、第一王女ならまだしも、私の公務は少ないのですよ」


「そうなんですね」



 頭の中の王女のイメージの一部が崩れた。

 まぁ、その方が気楽に仕事できて、いいんだけどね。



「お母様に、会いに行きましょうか」


「フィリナリア様の母、ということは、王妃様ですか……」


「ええ。お母様は今の時間、暇なのかしら?」


「第一王妃スゥージー様は現在、三階の談話室にいらっしゃいます」



 側に居た侍女が、フィリナリア姫の疑問に答える。



「それなら、行ってみましょうか」


「分かりました」



 俺たちは、王城の三階へと向かうのだった。






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