第46話
「……これは失礼いたしました、ゼオユーラン様。嘘看破の魔法を使用しておりました」
「へぇ……これが!」
フィリナリア姫がそう言うと、騎士たちの間に動揺が走る。
「なにッ! 姫様の光魔法は中級にまで至っているとでもいうのか!?」
「そんな馬鹿な!」
「姫様が信心深いとは聞いたことがないぞ!?」
騎士たちが驚きに包まれている中、姫様は再び俺に話しかけてきた。
「不快に思われたのならば、謝罪いたします」
「いや、気にしてないですよ」
「ありがとうございます」
フィリナリア姫の魔力の流れを注意深く見て、嘘看破の発動方法が分かった俺は、気分良く言う。
「それじゃあ、俺の疑いは晴れたってことでいいですか?」
「はい、それはもち———」
「そんなわけがないだろう!!」
「あ?」
またもや、さっきの騎士が突っかかってくる。
「仮に、貴様がAランク冒険者だとしても、此方が襲われている時、助けようともせずに黙って見ていたのは事実だろう!!」
「いやぁ、フィリナリア様が強いことは分かったのでね……助けなど必要ないと思ったんですよ」
「何だと!?」
「そもそも、通りすがりの俺の助けがないと主を守れない騎士ってどうなんだよ?」
「くっ……それは……」
「————私は貴方に黙るように言ったはずですよ、パットルー卿」
「ぁ……し、失礼しました!!」
「城に帰ったら、貴方には謹慎を申しつけます。暫く頭を冷やしていなさい!」
「は……ははっ!」
パットルー卿、と呼ばれた騎士は、此方を睨みつけながら下がっていった。
「本当に失礼いたしました、ゼオユーラン様。お詫びと言ってはなんですが、城に招待させていただきたく思いますが、よろしいですか?」
フィリナリア姫が俺にそう提案すると、漸く侍女が短剣を仕舞って俺から離れる。
「そうおっしゃるのなら、遠慮なくお世話になります」
「では、決まりですね」
フィリナリア姫はにこりと笑って、俺を馬車へと招くのだった。
♢
馬車の中には、フィリナリア姫とさっきの戦闘メイド?とは違い、戦いとは無縁そうな侍女と俺が居た。
「ゼオユーラン様はいつ冒険者になられたのですか?」
「二年とちょっと前です」
「そんな短期間でAランク冒険者になれるなんて凄いですね」
「運が良かっただけですよ」
「それでも、私には貴方の強さの底が見えません」
「フィリナリア様も、若いのにその魔力操作……正直、今まで見た人の中で一番上手いですよ」
そんな会話をしながら馬車に揺られること十数分。
俺たちが乗る馬車は、王城にいくつかある門のうちの一つに到着した。
馬車の中を確認されたが、フィリナリア姫が居たため、俺の身分確認をされることはなかった。
「到着いたしました」
御者がそう告げる。
「ご苦労様です」「ありがとうございました」
フィリナリア姫と俺は、御者に労いの言葉をかけると、馬車から降りる。
「……」
降り立った場所は、よく手入れが行き届いているのが伺える広大な庭だった。
「綺麗でしょう? 王家直属の庭師の方々が毎日頑張って下さっているんですよ」
「そうですね」
フィリナリア姫に会ってから分かったのは、彼女は王族にも関わらず、誰にでも物腰が柔らかく、尊重ができる女性だということだ。
……別に他の王族とか知らないけどね。
暫く庭を回ってから、城の中へと足を踏み入れる。
天井の高い、広い廊下?通路?を通って二階へと上がり、辿り着いた応接間。
そこで、席に着くと、その対面に侍女二人を後ろに携えたフィリナリア姫が座り、お菓子やお茶が目の前に出されたところで、フィリナリア姫が俺に話しかけてきた。
「失礼でなければ、ゼオユーラン様の今後の予定を教えていただきたいのですが……」
「ええ。構いませんよ————数日中には、王都を出て何処かに向かうつもりです」
「えっ……それは、どうしてですか?」
フィリナリア姫が小さく驚きの声を上げる。
「単純に、王都での決まり切った生活に飽きてきた、というのが理由です」
「そ、それなら! 護衛をしてみませんかっ!?」
「へ?」
「あっ……」
テーブルに身を乗り出して勢いよく告げるフィリナリア姫は、今までのお淑やかな様子とは大きく異なっており、俺は困惑するも、その言葉の真意を探る。
「護衛……とは、フィリナリア様の護衛ですか?」
「ぇ……は、はい。私の護衛は退屈しないと思いますからっ」
「なるほど。今日も襲われていましたしね」
「コホン……そうですね。王族の護衛は中々経験できないと思いますが……どうですか?」
(うん、退屈しなさそうだな。久しぶりに、護衛をしてみるのも悪くなさそうだ)
「分かりました。冒険者ギルドを通してくれれば、依頼を受けさせていただきますよ」
「ありがとうございます!」
「では、今日はこの辺で失礼します」
「分かりました。誰か、ゼオユーラン様を見送って差し上げて」
「はっ」
門の前まで案内された俺は、馬車で送るという申し出を断り、王都周辺は貴族街で見たい場所もないので、走って宿に戻った。
(ん? でも、フィリナリア姫くらいの実力者なら、護衛なんか要らないと思うけどな……あの侍女も中々強そうだったし)
走っている途中、そんなことを思ったがすぐに宿が見えてきたので、今後、俺がそれを気にすることはなかった。
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