第45話
「あの女を狙えッ!!」
馬車の中に居た女性の姿を認めた黒装束の一団のリーダー格の男が命令すると、襲撃者たちは斬り結んでいた騎士たちを無視し、一斉にその女性の方へと突き進む。
勿論、その隙を見逃す騎士たちでは無かったが、次々と襲撃者たちが地面に倒れる中、一部の者は傷を負いながらも、その女性の元へと前進する。
「姫様ッ!!」
手が空いた騎士たちは、その女性に向かって注意を促す。
ヒュゥウッ
刹那———。
女性に襲い掛かった者たちの足元が凍り付いた。
だが、襲撃者たちは間髪入れずに服に忍ばせた短剣を取り出し、投擲する。
カカカカンッ!!
それらは全て、女性が展開した光魔法の結界に阻まれた。
それと同時に、漸く追い付いた騎士たちが機動力を奪われて動けない襲撃者たちの首を刎ねた。
「チッ、仕方ない……今日のところは帰るとしよう」
「おい貴様、待てッ!!」
唯一、女性に向かって突撃しなかったリーダー格の男が斬り結んでいた騎士と距離を取り、その場から去ろうと後ろに振り向いたその時。
男の身体に、一つの短剣が突き刺さっていた。
「クッ……! なにッ……!?」
(この俺が気配に気付けなかった、だと!? しかもこれは、睡眠薬、か……。クソが……)
そう吐き捨てて地面に倒れ伏した男から少し離れた場所には、侍女服を着た女が立っていた。
「お目汚しを————フィリナリア様」
「いいえ、構いません。騎士の方々もありがとうございました」
「はっ……ですが、ヤツらを姫様の元へと行かせてしまった者たちには、厳重に処罰を与えておきます!!」
代表して返事をした男がそう言うと、先程、襲撃者を通してしまった騎士たちが口惜しそうな顔をしたが、
「いいえ、その必要はありませんよ。彼らは、必死に守ってくれたのですから」
と、姫と呼ばれた女性が老若男女を魅了しそうな微笑みを見せて告げる。
「はっ……では、そのように致します。おい、お前たち、より一層気を引き締めて、王城まで姫様を警護致すんだ!!」
「「「「「はっ!」」」」」
そう言って、騎士たちは馬車の周りで隊列を組み始めた。
(どうやら本物のお姫様のようだな……あー、久しぶりに面白いものを見れたし、帰るか)
そう思い、その場から去ろうとした俺だったが……
「誰か、居るのですか?」
「ッ!?」
女性が俺が居る屋根の方へと視線を向けながら、そう呼びかけたのだった。
「姫様、私は何も感じませんが……」
「いえ、僅かですが、気配をあちらの方から感じます」
「おい、誰か、あの屋根の上を確認してこい」
「はっ」
「————その必要はない」
俺は馬車から少し離れた場所に降り立った。
「何者だッ!!」
騎士たちが警戒した様子で、俺に向かって武器を構える。
「さっきの戦いを見物してただけの一般人だよ」
「騎士である私たちが気付けない程の隠密力を持つ貴様がただの一般人なわけがないだろう!! 正直に申せ!」
「えー、本当だよ? ……うん?」
「————お前は何者だ」
侍女の格好をした者が、背後から俺の首に短剣を充てがっていた。
勿論、気付いてはいたが……
やろうと思えばこの場から一瞬で離脱できるし、行動が制限されていると相手に思われた方が、話が通じやすそうだからな。
「はぁ……。仕方ないなぁ……俺はAランク冒険者のゼオユーランだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「お前みたいなガキがAランク冒険者だと? 冗談も程々にしておけ! 貴様、今の自分の立場が分かっているのか?」
「俺ってそんなに知名度無いの? 結構、王都で活動してたはずなのになぁ……」
「————Aランク冒険者のゼオユーラン……最近、噂を聞いたことがありますね。3、4歳くらいの子供が高ランクの依頼ばかりを受けて、全て完璧に達成していると」
騎士と不毛な会話を続けていると、突然、例の女性が話に入ってきた。
ここで、漸く俺は自分が姿を変えたことを思い出したが、気にせず軽口を叩く。
「そう、それそれ。それが俺だよ」
「貴様! 姫様に向かって無礼だぞ!」
「えー、何が?」
「その言葉遣いや態度が、だ!」
「なんで知りもしない相手に礼儀を尽くさないといけないんだよ」
「何だと!? 貴様————」
「これはすみませんでした。確かに、名乗っていませんでしたね。私はフィリナリア・シュッペルゼ————この国の第四王女です」
すると、女性が優雅な所作と共に、自己紹介をした。
「これはこれは、王女様でございましたか。大変失礼を……。では、改めまして、俺はAランク冒険者のゼオユーランと申します」
「ゼオユーランという方はもっと幼いと聞き及んでいましたが?」
「ええ。本日、元の姿に戻ることに致しまして……この姿となったのですよ」
「貴様ッ! 姫様に向かって、ふざけた嘘ばかり吐きやがって!!」
騎士が会話に割り込んできて、再び俺を罵倒し始める。
「パットルー卿」
「はっ」
「少し、黙っていて下さいね」
「は……? い、いえ、了解しました!!」
五月蝿かった騎士が静かになったところで、俺は尋ねる。
「フィリナリア様、一つ、聞いてもいいですか?」
「はい」
「————さっきから、何の魔法を使っているんですか?」
「「ッ……!?」」
俺の言葉に、フィリナリア姫とその侍女は驚きを露わにする。
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