第44話 強い、美少女?


 一年後———。


 あれから、俺は冒険者ギルドで依頼を受けて、金を稼いでは魔力回復ポーションを買い、魔力を使い果たして回復して、のルーティンを繰り返していた。


 これまで色々試してきたが、魔力を使い切って魔力を増やす時、一旦、魔力が全回復した状態に至らないと、ステータスの魔力数値は増えなかった。


 ……まぁ、それはどうでもいい。


 重要なのは、この一年で俺は人外の強さに達したということだ。


 一年前でも十分に強かった自覚のある俺だが、今では、仮にレベル99の人間が居ても、負けないであろう。

 俺は膨大な魔力を得て、そう思えるだけの強靭な肉体を手に入れた。



「まぁ、このくらいでいいだろ……」



 今日も今日とて、空になった魔力回復ポーションの瓶がいくつも辺りに転がっている。



「うーん、もう十分強くなったし、そろそろ元の身体に戻るか……」



 そう。この一年、俺は魔力を増やすために、ずっと3歳児(多分)の姿で生きてきた。

 あ、今は4歳か。


 だが、流石に代わり映えのしない生活に飽きてきた。そのため、再び《時空間魔法》を使って元の身体に戻ることにしたのだった。



「ふぅ……やるか!」



 俺は体内の莫大な魔力と《時空間魔法》の固有スキルを意識し、魔力を練り始める。


 これまで、魔力を消費し続けてきて、俺の《魔力操作》のスキルは極致級に至った。



 極致級———。


 過去、記録に残る限りでは、初代勇者と一人のS級冒険者のスキルだけが到達したという領域だ。


 因みに、俺の《光魔法》も極致級になったんだが……今はいい。


《魔力操作》のおかげか、あれ程難しかった《時空間魔法》の詳細も、手に取るように使える。

 そして、時間を操るこのスキルが、今の俺の肉体年齢が4歳であると教えてくれる。



「えーと、10年後かな……」



 本来の年齢は12歳と3ヶ月だが、少し誤魔化して、14歳の身体になることにした。

 精神年齢はもっと上だし、いいよね?



「ふっ……!」



 俺は溜めた魔力を体内で解放する。


 前回とは違い、制御できなかった魔力が周囲に漏れることもなく、《時空間魔法》を発動させる。



「ッ……!!」



 目線の高さが変わり、急激な肉体の変化に少し戸惑っていると、あることに気付く。



「あっ……服破けた……」



 身体が大きくなったことで、服が破け、生まれたままの姿を晒していたのだ。


 幸い、今いる場所は人気のない平原なので、落ち着いて新しい服に着替えようとするが、一年前に着ていた服は宿に置いてきたことに気付く。



 (仕方ない……そう、これは仕方のないことなんだ……)



 数分後、光魔法で姿を消した俺は、門番をしている衛兵の前を素通りし、王都の道を素っ裸の状態で歩くのだった。




   ♢



「そろそろ、王都を出るか」



 宿で服を着た俺は、そう呟いた。


 正直、これ以上王都に居ても、事務的に冒険者の仕事をこなすだけになりそうだしな……



「そうと決めたら、最後に王都観光と行こうか」



 一年間、王都に居たが、俺が行く場所と言えば魔力回復ポーションを売っている店や冒険者ギルドくらいで、あまり王都を回ったりはしなかった。

 そもそも王都は、一日かけて歩いても、端から端まで辿り着けないほど広いし。



「おっ、あれ旨そうだな、って高いな……俺の今の所持金じゃあ、無理だ」



 所々で美味しそうな食べ物を見つけては諦めて、を繰り返す俺。


 貯まったお金は魔力回復ポーションにつぎ込んできたため、生活する分には問題ないが、贅沢する程のお金は持っていない。

 俺、Aランク冒険者なのに金欠って……



「ま、まぁいいしっ。これから稼ぐから……」



 誰にともなく言い訳をしながら、王都の大通りを歩く。



「……ん? 王都なのに、これは戦闘音か……?」



 ふと、金属の斬撃音を化け物級となった聴覚が捉えた。



「王都で戦いか……面白そうだな」



 買いたい物も買えず、見るだけになっていた王都巡りが飽きてきた俺は、丁度いいと思い、戦闘が行われているであろう場所に、全速で向かう。


 その音の元に到着すると、王都の中でも少し広めの道で、数人の騎士が守る馬車を、黒色で染まった外套を羽織った怪しげな者たちが襲っていた。


 どうやら、騎士たちと襲撃者の実力は伯仲しているようで、中々、彼らの戦いの均衡が崩れることはなさそうだ。


 俺がその様子を屋根の上から眺めていると、ある時、馬車の扉が開いて、中に居た者がその姿を現した。


 ———16、17歳くらいに見えるその女性は、筆舌に尽くしがたい美貌を持っていた。彼女は蒼銀の長い髪を靡かせ、その理知的で、どこか底知れなさを感じる白藍色の瞳を戦いの場に向けた。



「ほぅ……」



 だが俺は、その美しさではなく、彼女の技量の高さに、驚きの声を小さく漏らした。


 人は、無意識のうちに微量の魔力を体外へと放出し続けている。

 魔力量が多い者ほど、その量は顕著になり、俺の場合、《魔力操作》のスキルが無かったら、魔力が漏れ、常に周囲を威圧することになるだろう。


 魔法師は、体外へと放出する魔力の制御力を見て、相手の強さを測るのだ。……どれだけ優れた魔法師でも、魔力は体外に漏れてしまう。


 だが、超級の《魔力感知》を持つ俺でも、ぼんやりとしか感じられない程に精密な魔力操作。それによって、この女性は自身の強さを相手に悟られないようにしている。



 (襲われている方を助けてやろうと思ったが、必要なさそうだな)



 俺はそう判断し、横槍を入れることはせず、傍観に徹することにしたのだった。




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